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 : 水稲の育苗用培土は水草水槽のソイルとして使えるでしょうか?

 先日家の近所にあるホームセンターで園芸コーナーをブラブラ歩いていると、“水稲用育苗培土”というシロモノを見つけました。袋の口が開いているサンプル用のものがあったのでつまんでみたところ、水草水槽でソイルとして使われている土と色・形ともそっくりです。袋には「pH4.5−5.0 肥料入り」と書いてあって、いかにも水草水槽用です。この土は水草水槽に使えないのでしょうか?使えるなら22リットルで420円と、とても安くてお得な気がするのですが。何かお勧めの製品とかありますか?


 : 水草水槽の底床材に求められる条件を備えていれば育苗用の培土も使えます。ただし、積極的にはお勧めできません。

 毎年11〜5月ぐらいに同様の質問をいただくのですが、答えは「粒状のものの多くが使える。しかしお勧めはしない」です。
 そもそも、水草水槽用のソイルとして売られている製品自体が、育苗用培土(主に水稲用)、あるいはその調製品だと言われています。したがって育苗用の培土として売られている製品も当然流用可能です。

 しかし、購入にあたってはいくつか注意しないといけない点があります。
 まずは土の“形状”です。育苗用の培土には、土やピートを調整しただけで粒度を触っていない製品=すなわち“土”の状態のものが多数存在します。むしろ粒状でない培土の方が大多数と言えるでしょう。粒状に加工されていない培土も水槽に使えないことはないのですが、水草を少し触っただけで泥濁りが発生しそれがなかなか収まらなかったり、それが原因で白濁やアオコが多量に発生したりするので扱いが難しいと言えます。
 また、粒状に加工してある製品でも、その製造過程で熱が加えられていない培土は、そのままの培土よりはマシなもののやはり水が濁りやすく扱いに難しさがあります(赤玉土のようなものもあるので使えないわけではありません)。
 したがって、形状ついては、粒状に焼成してあるものがベストです。通常「焼土」とか「焼成培土」、「焼成粒状培土」などと表示されています。まずはそこをチェックです。

 次に成分と性質です。
 バーミキュライトやパーライト、ピートなどが配合してある製品の場合、それらが水面や水中に多量に漂って魚や水草の育成どころではなくなってしまいます。そういったものが入っていないか確かめる必要があります。もちろん魚や水草に有害な成分が入っていないか、その判断のための知識も要求されます。
 肥料分については、水槽用のソイルのラインナップと同じく肥料分が添加されている培土と添加されていない無肥料のものとが存在します。添加されていない培土の場合は水槽に施設するとき、あるいは施設したあと自分で肥料を添加することになります。添加してあるものの場合、たいてい水草用としては肥料分が多過ぎるので、設置直後にマメに換水して余分を水槽外に排出しないといけません。
 pHは、水稲用のものであれば5.0前後に調整されているはずです。この値は南米(アマゾン)産など弱酸性の軟水に適したものです。したがって、水稲用の低pHの培土を使うのなら、必然的に水草の種類もこれに合ったものを選ばないといけません。逆に、中性から弱アルカリの水が適している水草を育てるつもりであるのなら、水稲用の低pHの培土を使ってはいけません。たとえ水に添加剤を多量に加えてもpHの矯正はまず無理です。

 培土に使われている土そのものの種類にも注意が必要です。
 すぐに気付くのが土の色だと思います。真っ黒なものもあれば黄色っぽいものもあります。底床の色は水草や魚の見え方に大きく影響するものですから色もよく検討しないとけません。その際、手に取った段階で少し色がくすんでいても土は水に入って濡れると色が濃く見えるものです。色を判断するときはその点を考慮に入れましょう。また、土の種類によっては、いくら粒状に焼成されていても水に入れるとドロドロに崩れてしまうものもあります。そこは買う段階で判断できないので一種の賭けのようなことになります。ですから、購入する時は一度に大量に買うのは避け、ためしに一袋だけ買って水槽で確かめてみるのが無難だと思います。

 最後に、育苗培土全体に言えることなのですが、育苗用の培土はそもそも農家向けに作られているものが大半です。そして、農家は、それぞれが自分の田畑や栽培方法に最も適した品種の作物を選んで作っています。米だけでも地域ごとに様々な品種が栽培されているのはみなさんご存知のはずです。ところで、農作物は「苗半作」「苗八作」などと言って、最初の苗の出来がその作物のその後の生長の半分以上を決めてしまいます。ですから、苗の育成に用いられる培土は、地域の気候や土壌の特性、育苗方法、栽培品種などが慎重に考慮され、それぞれに最適な培土になるよう数多くの種類が製造されています。そしてそれらは地域と農家の実情に合わせてメーカーから特別なルートで供給されています(共同購入や農協でまとめて発注するなど)。つまり、あまり知られていませんが育苗用の培土には非常にたくさんの種類が存在するのです。
 したがって、“水槽用”として購入する場合、その培土の種類の多さと判断に必要な資料の少なさから、ハズレを選んでしまう可能性が少なからずあります。また実際に購入しようとなると、流通ルートの特殊性からなかなか見つけられないはずです。「前回買ったのはハズレだったから、今度は別のを買ってみよう」と思っても簡単には入手できないのが現状です。その地域で比較的よく使われている汎用的な製品がホームセンターなどに少し並んでいる程度でしょう。

 よって、育苗用培土を使うことはハズレを引く可能性が高いため積極的にはお勧めできません。水槽用として使える製品はいくつかあるのですが、どこの地域でも手に入るわけではないので、「お勧め」として挙げることはできません。
 もし、どなたかが既に使用して「この製品は使える」という情報が公開されていて、それと同じ培土をホームセンターなどで見かけたなら“買い”だと思います。そうでなければ、やはり“賭け”的な要素が入ってしまうと思います。
 結論として、やはりすでに実績があるアクアリウム用(水草水槽用)として売られている製品の方が安全ですし、経験上、探す手間と時間のことを考えれば育苗用培土もあまりお得とは言えないように思います。


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