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 : 大磯砂など海産砂のカルシウムを塩酸で処理する場合の手順を教えてください。

 
『大磯砂利』という名前で売られていた砂を買ってきたのですが、塩酸を使ってカルシウム分を取ろうと思っています。塩酸で取る場合は前もって大きなカケラを除いておく必要はないでしょうか。また具体的な手順を教えていただけると幸いです。


 : 塩酸で処理する場合、通常、大きな欠片を除去しておく必要はありません。具体的な処理手順を簡単に説明すると以下のようになります。ただし、薬品の取り扱いについてある程度知識があって、自己の責任で作業を行えないのであれば塩酸での処理はお勧めできません。身体に重大な障害を招くおそれがあります。

1.準備をする
○大磯砂など海産の砂 :2mm程度の粒なら60センチ水槽に5cm厚で15Kg程度。
○塩酸 :35パーセント濃度なら15Kgの砂に対して350cc(350ml)程度。
 工業用の安いものなら500ml入りで160〜400円ぐらい。
○容器 :15Kgの砂なら容量10リットルぐらいのバケツを2つ+中和用にもう1つ(合計3つ)。
○容器のフタ
○保護具 :ゴム手袋、保護メガネ、保護マスク、エプロンなど。
○撹拌用の棒 :酸に侵されない材質のもの(ガラス棒など)。
○重曹 :中和させるためのもの。50gもあれば足りるはず。
○pH測定器 :塩酸が足りているか確認するために使う。
○洗面器に入れた水 :飛沫が飛んできたときに応急的に洗うためのもの。
○混ぜるための棒

※ 塩酸は薬店などで購入できます。常置してあるお店も多いですが店によっては取り寄せになるでしょう。用途と住所・氏名を書き押印する必要があります。印鑑を持っていくのを忘れずに。工業用の安い塩酸で十分です。但し、希塩酸ではなく、塩化水素35パーセントぐらいの強塩酸であることを確認しましょう。
※ 塩酸のビンに書いてある注意書きをよく読んでから作業にかかります。

2.場所を確保する
  ビンの内蓋を開けた瞬間から有毒な蒸気が出てくるため、予め換気の良い場所を確保しておくことが重要です。原則として屋外で作業しましょう。塩酸の蒸気を多量に吸引すると肺水腫を起こして死亡に至る例が報告されています。また、浸けている間に家人(特に子供)が触ると危険ですので、誰も近寄らない安全な場所であることも確認しておきましょう。また、作業中に飛沫が飛んできたらすぐにすすげるよう、水を洗面器などに入れて準備しておきます。

3.防具を着ける
 目に入ったり蒸気を吸ったりすればえらいことになりますし、服につけば穴が空いたりします。しずくが「ピチャッ」と飛んできても大丈夫なように完全防備で作業にかかります。マスクは防毒マスクでないなら、水で濡らしておきます。
  こういった準備がめんどうならば、塩酸を使うのはやめておいた方が良いです。

4.容器に入れる
 砂15Kgなら9リットルぐらいなので、処理には容量10リットルぐらいのバケツが2つあればOK。それぞれに水を3リットルぐらい入れ、そこに塩酸をそれぞれ150ml(150cc)ほど入れて軽く混ぜます。塩酸を入れてから水を入れると爆発して塩酸が飛び散るので、この順番は間違えてはいけません。絶対に水が先です。また、塩酸を注ぐときはドボドボ入れると飛沫が飛んできます。ガラスの棒(ガラスのマドラーで代用可)をビンの口にあて、この棒に伝わらせるようにしてバケツに静かに注ぎ込みます。画像では撮影のため上に持ち上げてますが、実際は棒の先を水面につけて作業します。
  そして次に砂を半分ずつ、そっと入れ、棒でよく混ぜます。この棒は、硝酸を使うときとは違い、木の棒でもかまいません。

5.撹拌しながら浸けておく
 最初は反応が勢いよく進むので10分ごとに混ぜます。反応が緩やかになって泡の発生が少なくなってきたら1〜2時間ごとに撹拌し、必要に応じて(=pHを測り中性に近づいていたら)塩酸を足します。
  pHがあまり上がらなくなり、泡も少なくなったら、蓋をして最低24時間置いておきます。ただし、棒と手袋をした手で、米を研ぐようにザクザク頻繁に混ぜていれば、数時間で完成します(手袋の破れや穴に注意)。何日も浸けておいたものと仕上がりに大差はありません。混ぜるときには飛沫に注意し、もし皮膚や衣服に付着したらすぐに流水で洗います。

6.塩酸を中和して捨てる
  バケツに入っている液を別のバケツに移し、重曹を少量ずつ混ぜ、pHを測ります。中性近くになったことを確認できたら排水溝から流してOKです。中和で生成されるのは塩・水・二酸化炭素なので近所の川で魚が大量死して警察沙汰になるようなこともありません。

7.砂をよくすすぐ
 砂の表面の泥はすでに剥がれているはずですから、あとはよくすすぐだけです。塩酸が残らないように混ぜながら何度も水を通します。そして水にしばらく浸けておき、その水のpHが下がらないようになっていたら完成です。ちなみに、たいていは最低12時間ぐらい水に浸けておかないと塩酸が抜けないはずです。砂粒の表面に孔が多ければ2、3日かかる場合もあるでしょう。したがって、すすぎは1回だけ徹底的に行うのではなく、まずは適当にすすぎ、しばらく水に浸けておき、それから再びすすぐ、という手順が良いと思います。 

8.完成
  浸けておいたすすぎ水のpHがほとんど下がらなくなったら完成です。このあと、砂を消毒したりする方もいらっしゃいますが、私はそのまま使っています。

※ 硝酸を使う場合も同様の手順で行いますが、混ぜるときにうっかり木の棒などを使うと有毒ガスが急激に発生しますし、浸ける前に木片などを除いておく必要もあります。皮膚に飛沫が飛べば深刻な状態になります。また使用したあと中和させてもそのまま排水溝に流せば警察の出動を招くかもしれません。
※ いずれにしても、強酸を使う限り、以上の手順通りに作業しても作業者の不注意で重大な結果を招く危険があります。失明や呼吸器障害を引き起こしてしまってから後悔しても手遅れです。薬品の取り扱いに対して必要な知識と認識が無い限り、食酢かクエン酸による方法が安全だと思います。念のため。


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