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 : 市販のバクテリア剤は必要でしょうか?入れた方が良いものでしょうか?

 水槽をセットするとき、市販されているバクテリア剤は必要でしょうか。あるいは入れた方が良いのでしょうか。ショップの店員に「水槽をセットするにはバクテリアが必要だからこれを買ってください」と言われて薦められたバクテリアを買ってきたのですが、インターネットで確認すると、「そんなもの要らない」とか、「入れるとその水槽のバクテリアのバランスが崩れるから入れてはいけない」という意見もあちこちにあります。 


 : 自然のバクテリアが水槽で増殖・定着するのが待てるのであれば不要でしょう。入れた場合は、本来の効果が認められるもの・別の効果が認められるものの両方があると思います。悪い結果になる可能性は低いでしょう。

 市販のバクテリア剤については、必要性の問題と、有効性の問題、さらに許容性の問題の3つの話しがごちゃ混ぜに議論されることが多いのでわけが分からなくなりがちです。ですから、ここでは分けて書いてみたいと思います。
  まずは、必要性についてです。水槽に必要なバクテリアは、空気中から入り込んだり、底床材や水草に引っ付いて入ってきます。そして、水槽の中で必要とされるバクテリアたちが、必要とされるだけ、自然とバランス良く殖えていくものです。ただ、自然に殖えるのを待っていた場合、魚を飼うのに必要なだけの量になるのに50日以上かかります。その間は魚を入れないか、入れてもわずかな数にしておかねばなりません。そこで、“もっと早く魚を入れられるように外部のバクテリアの助けを借りよう”という考えが出てくるわけです。つまり、「水槽に固有のバクテリアが自然に殖えて十分な量になるまでには時間がかかる。しかしそんなに長くは待っていられないから、その間のバクテリア不足を外のバクテリアの投入で埋め、もっと早く魚を入れられるようにしよう」と考えるのであれば、市販のバクテリア剤は必要性があると言えます。逆に、「50数日ぐらい魚の導入を控えめにできるよ」という考えであれば、市販のバクテリア剤は不要と言えるでしょう。

  次に、有効性の問題です。売られているバクテリア剤は、メーカーから出荷されてから問屋を経由して店頭で客に購入されるまで、けっこうな時間がかかっています。高温になる熱帯魚店の店内で何ヶ月も何年も店晒しになっているものも見かけます。最近は保存温度などに工夫がされているものも見かけますが、まだまだ多くのものが生きた菌を販売してるとは思えない状況で売られています。こういった販売の方法と製品の有効性には、過去、細菌の専門家や研究者からたびたび疑問が投げかけられています。バクテリアの働きの中でも水槽で重要視されるのは、アンモニアと亜硝酸を分解する働きですが、実際、市販されているバクテリア剤を水槽で使用してみても、使用していない水槽と大きな違いが出ない製品が数多くあります。つまり、有効性には大きな疑問があります。私自身、けっこう長い間、次々に発売されるバクテリア剤を色々と試してきましたが、有効な製品に出会えることは滅多にありませんでしたし、有効性が“客観的に”示されている情報に出会ったこともありません。
 ただし、市販のバクテリア剤は本来とは違った使い方ができます。製品には、その製品に含まれているバクテリアが直接はたらくことが謳われていますが、そうではなく、自然に発生する水槽固有のバクテリアに、その製品に含まれている有機物(おそらく死んだバクテリア)を餌として与え、その増殖を速める、という使い方です。固有のバクテリアの増殖を早めるためには死んだ金魚や食肉の欠片、枯葉などがときどき用いられてきましたが、付随して病原菌の持ち込みや油脂の問題などがありました。その点、市販のバクテリア剤ではそのような問題が起きにくいですし、結果も良好です。したがって、私はこのような目的でよく市販のバクテリアを使います。他所でこのような使い方は聞いたことも読んだこともないので、たぶん特異な使い方だとは思いますが。

  許容性についての問題点は2つです。1つは、ご質問に書かれているものだと思いますが、「外からバクテリアを持ち込んだら固有のバクテリア相の形成を阻害する」という主張がされている問題です。人間の歯のミュータンス菌の話題でよく目にしますが、一定の場合、菌には最初に定着した種類の割合があとあとになってもずっと変化しない、という性質があるそうです。その性質を水槽に当てはめると、水槽の設置の直後に他の場所から菌を持ち込むのことは本来の固有の菌の数やバランスに影響を与えそうに思えます。ただ、この主張については未だ簡単なテストの裏づけも本格的な観察レポートも目にしたことがありません。個人的には「ありそう」と思いますが、これから先もしばらくは立証されることがないでしょうし、通常の水槽の維持で実感することもありませんから、気にしなくても良いのではないでしょうか。
 2つ目は、コスト面の許容性です。実際に水槽に使ってみて有効性がはっきり確認できる製品であっても、製品の中の菌が水槽で繁殖・定着することは難しいようで、たいていは「継続的な使用」が求められています。すなわち、水槽をバクテリア剤の働きだけに頼って維持している場合はバクテリア剤をずっと買い続けなければならず、コストが気になる人には許容性が低いように感じられるはずです。

  以上をまとめると、「原則として水槽は自然に湧くバクテリアで足りる。しかし、殖えるには時間がかかる。その時間が待てないならば市販のバクテリア剤を使えば良いが、本当に効果があるバクテリア剤は少ない上、効果の有無を知るための情報は皆無に等しい」というのが経験を積んだアクアリストの多くがもたれている認識だと思います。


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