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 : 水槽のセット時、生体を入れる前に水を回していることには意味があるのでしょうか

  水槽を初めて設置するとき、よく「魚を入れる前に何週間か水を回しておいた方が良い。その間にバクテリアが繁殖して水槽が安定する」と言われていますよね。しかし「魚を入れていないのに水を回しても意味が無い」という意見も聞きます。どちらが本当なのでしょうか。教えてください。 


 : 意味はあります。言われているように、バクテリアの繁殖や定着、それに水槽全体の安定が早まります。

 ためしに、この問題を頭の中の“理屈だけで”考えてみましょう。

水道局に上水道の中に含まれている成分を問い合わせてみればすぐ分かりますが、水道水の中にはバクテリアの餌になる物質がけっこうたくさん含まれています。また、水槽を設置すれば様々な器具が水と接することになりますし、底床を敷いたり肥料を挟み込んだりすればさらに多くの物質が水に溶け出します。これらは水を回しているだけでも化学的に変化していきますし、照明がセットされていればそれらを餌にする植物プランクトンが湧いてきます。さらにまたそれらを餌にする動物プランクトンも湧いてくるので、水槽内には自然に小さな生態系が出来上がります。それから魚を導入すれば、一時的には水槽の負荷になっても安定が早まるのは間違いないと思われます。
しかし、魚を導入する際に問題になるのは、アンモニアや亜硝酸といった猛毒です。これらを分解してくれるバクテリアが水槽にいることが重要なはずです。その点、水道の中にいくらバクテリアの餌になるものが含まれていると言ってもその量は微々たるものだと思われます。魚が排泄する量を分解できるほどのバクテリアがそれだけで繁殖できるはずがありません。生物の増殖量はその餌になるものの量に大きく左右されるのですから、少ない餌しか無いところには少ない生物=この場合は少ないバクテリアしか発生しないはずです。また底床を敷いたり肥料を入れたりして水を回しても、そこに発生するバクテリアが魚の排出物を分解してくれるバクテリアと同じ種類や構成であるはずがなく、ある程度の意味はあったとしてもそれが立ち上げをスムーズにすることの助けになるかどうかには疑問が生じます。
しかし、 たとえ何も入れていない水道水であっても、水は徐々に変化するものです。容器に汲んで置いておけば、容器の内側にぬるぬるした物質が少量ながらもつくことなどからも分かるはずです。また底床や肥料を敷いて光をあてれば、必ず腐敗や分解といった現象が起き、バクテリアやプランクトンを含む微生物全体の活動が盛んになることは間違いありません。その中には当然魚の排泄物を分解するバクテリアも含まれているはずですし、水槽内で活性化されていれば魚が入ってきたときにその量に応じて即座に増殖する可能性が高まっているはずです。またバクテリアの活動の結果も含め、こういった時間の経過による変化で水には一種の粘りのようなものができますよね。少しトロッとしたような状態の水です。これが魚の粘膜の保護などに役立ちます。
しかし、いくら魚を受け入れやすい状況が作り上げられるにしても、実際に魚を飼いながらバクテリアなどの微生物の定着を図る方法に比べれば、水槽の立ち上がり方がまったく違うはずです。最も魚を受け入れやすい状況を作ることを目指すのならば、その方法は、実際に魚を入れて作るのが最善であることは自明でしょう。実際に魚を入れて環境を整えれば、バクテリアに関わることだけでなくpHの変化や水質の変化など、まだ指摘されていないようなことも“魚を受け入れるのに適した”状態になるのは間違いないのですから。それと比較すれば、魚を入れずに水だけをぐるぐる回す方法に意味があるとはとても思えません。
しかし、最初から魚を入れて水槽を立ち上げる方法は、バクテリアなどが定着していない水槽に投入する以上、その魚が高いリスクにさらされることが前提になります。アンモニアや亜硝酸で粘膜がやられて病気が水槽内に蔓延してしまう水槽側のリスクもあります。また、魚を入れる前であっても、底床や肥料が敷かれていれば相当量のアンモニアや亜硝酸は発生するはずです。底床材が水と接する面積や体積からしても、その量は決して少ないものではないはずです。さらに、蛇口から汲んだばかりの水はpHが大きく変動します。たとえ魚の数が、本格投入前の導入的なごく少数であっても、あえてこういったリスクを冒す必要はないと思います。底床などを敷いていればそれに並ぶぐらいの効果はあると考えられますから。
しかし、 最初から多くの匹数を入れるのではく、最初は1匹、追加で1匹、そしてまた1匹、と、様子を見ながら匹数を増やしていくのですから、1匹1匹の魚が負うリスクが高いとは決して思えません。比例して、水槽のリスクも低く抑えられるはずです。そのリスクと、魚の排泄物によって飼育に必要となるバクテリアが間違いなく定着するメリットとを天秤にかければ、魚を入れて立ち上げる意味は極めて大きいと言えます。逆に、たとえ底床材が入っていたとしても魚なしで水を空回しさせることの意義はずっと小さいと考えます。
しかし、初めて水槽を立ち上げる初心者の方が、最初の魚を安全に水槽に導入できるかどうかには非常に不安があります。外から生体を持ち込む、ということの危険性の高さを十分に認識できている初心者なんてほとんどいないはずです。最初の水槽も立ち上がっていないのに別に検疫水槽が用意されている可能性など皆無に等しいでしょう。受け入れる水槽側にもバクテリアなどの微生物相ができあがっていないのですから、いったん外部から病原菌などが持ち込まれれば、立ち上がりが早いか遅いかなんて話しではすまなくなりますよね。そういった危険が考慮されていないのは問題があると思います。また、魚を1匹、また1匹と購入してくることなど、現実離れしています。そんなことができるお店やアクアリストは、実際、ごく少数だと思われます。
しかし、魚の排泄物を処理するのに必要な微生物を用意するには、魚の排泄物を利用するのが一番素直で直接的で効果的だと思います。魚の様子を見ながら判断できる点で確実性も高いですし。空回しすることで起きているであろう変化をあれこれ想像する方法でも、結局最後は魚を入れて最終判断をしないといけないわけですし、それならば最初から入れておけば良いわけで、最初に魚を入れないでおくことにどれだけ意味があるのか疑問を感じざるをえません。
しかし、魚を入れずに、水槽の水質を、

・・・と、理屈ではいくらでも続けることができますよね。
  そして、理屈をいじって議論することは無意味ではありませんよね。見逃してしまっている視点を拾い出したり、先の予測を行ったり、より良い方法論を作り出したりして「可能性を広げる」という重要な意義をもっています。
  しかし、このテーマの場合は別です。理屈をいじくりたおしてもあまり意義がありません。なぜなら、このテーマが「やってみればすぐに分かること」だからです。「やってみればすぐに結論が出るテーマ」なのですからやってみればいいのです。

 で、ぜひご自分でもやってみていただきたいのですが、
 私が今までに何度もやってみた結果は、「空回しには意味がある」です。同時に2つの水槽を用意し、空回し期間をおいたものとそうでないものを比較すると、明らかに空回ししておいたものは安定するのが早くなります。またそれは、少量の魚を入れて立ち上げる場合と比較しても安定の仕方に遜色ありませんでした。つまり、魚を少しずつ導入して立ち上げようと、また底床などを敷いただけで空回ししながら立ち上げようと、大した違いはない、ということです。
  ただし、以上の話しは、あくまでも、「水の空回しに意味があるかどうか」というテーマの話しです。水槽の立ち上げ方は、使う器具の組み合わせや、その後の維持の仕方、生体の種類や組み合わせなどによって、最善の選択肢が変わってきます。空回しの期間をおいて立ち上げる方法が、どの場合においても最善の方法とは限りません。そこは分けて考えて下さい。


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