水草水槽の楽しみ方〜アフリカンシクリッド編


1つの水槽の中に、硬度を好むものが多いアフリカンシクリッドと低い硬度を好むものが多い水草とをうまく組み合わせて維持するのは簡単なことではありません。それを綺麗な水槽に仕上げるとなると、さらに高い技術が要求されます。しかし、それだけに完成させたときの達成感は格別です。水草水槽ではそういう難易度の高いものに挑戦する楽しさもありますね。
今回は、そんな難易度の高い水槽についてtony t.さんからご投稿をいただきました。総論から具体的な方法論まで書かれた“超”充実の内容です。これから挑戦する方にとって大きな助けとなるはずです。
tony t.さん、どうもありがとうございます。 05/03/30

 
タンガニイカ湖緑化計画

tony t. 2005/03/28


【拙宅の水槽】 ●水槽サイズ:60×30×36●水温:冬24℃/夏30℃●pH/GH:8 / 8〜12●濾過装置:エーハイム2215
●濾材:ノーブランドのリング状生物濾過材+グラスウール少々+サンゴ砂1〜2握●照明:20w×2 12〜13時間/日●CO2:無添加
●水換:週1回2/5〜1/2、サンゴ砂を入れた汲み置き水使用●底床:ブランド不明の赤玉セラミック2種混合+ADA「パンタナル」少々
●添加剤:気が向いた時にテトラ「フローラプライド」と「イニシャルスティック」
●魚:キプリクロミス・レプトソーマ (オス1・メス2+子供数匹)、アルトランプロローグス・カルバス 1Pr、オトシンクルス 1、アベニーパッファー 1、ヤマトヌマエビ 数匹

 拙宅では水草水槽でアフリカンシクリッドを飼育しております。まだ水槽を立ち上げて1年ほどではありますが,通常では難しいと言われているアフリカンシクリッドと水草の共存について、少しながらではありますが自分なりのノウハウが蓄積されてきたので,それを以下にまとめてみたいと思います。
 まだキャリアが浅いため、下記に書かれたことは全てが実績に基づくものではなく、経験からくる推測に因る部分も多分に含まれますので、その旨ご了承ください。
 以下にまとめておりますのは、できるだけアフリカンシクリッドと水草を共生させる場合に限った内容に的を絞ってありますので,一般的なアフリカンシクリッドの飼育法や水草の育成方法に関しては省いてあります。
 また、ここで述べている「水草水槽」とは、水草を大量に植え込み、水質浄化のかなりの割合を水草が負っているような水槽のことです。アフリカンシクリッド水槽に美観の目的でアクセント的に少量の水草を植えるような通常のケースは、必ずしも以下に書かれた内容に当てはまりません。


はじめに
  アフリカンシクリッドの水槽は「水質が高pH,高硬度で維持されるので水草は育たない」というのが常識になっていますが、実際にはそんなことはないようです。水草に適した底床を使用し、丈夫でよく育つ種類の水草を選び、レイアウトコンテストレベルのコンディションを求めなければ、高pH,高硬度下で水草水槽を楽しむことが可能です。
 しかし、逆に、どちらかというとアフリカンシクリッドの方が水草水槽に向いていないキャラクターである場合が多く、それがアフリカン+水草水槽の難しさの原因になっているように思われます(詳しくはおいおい下記にて)。
 私の今までの経験から、アフリカン+水草水槽では以下の3つが成功のキーになると考えています。
◆ アフリカン+水草水槽では、底床材・器具類の選択やレイアウトが重要。現在稼働しているアフリカンシクリッド水槽を水草水槽化するよりも、できれば器具類の購入や魚種のセレクト、レイアウトデザインの段階から計画的に新しい水槽を立ち上げたほうが楽(ケースバイケースですが)。
◆ 魚,水草ともに利用できる種類が限られるので、種類の厳選と妥協が必要。
◆ 最低週1回のマメなメンテナンスが必要。メンテナンスが散漫にならないよう、はじめのうちは欲張って大きな水槽にしたり、水草水槽を何本も立ち上げたりしない方がいいかも。

 アフリカン+水草水槽では、この両者の折り合いの悪さを飼育者の創意工夫とマメな世話によってカバーしなくてはならない部分があるため(そこが面白いところでもあるのですが…)、維持にいささかの苦労を伴います。ゆえに、
● 元々水草の好きな方で、水草の世話が苦にならない方の場合
● アンモニアや亜硝酸濃度の上昇に弱い魚種の飼育にチャレンジされる場合
● 水草水槽を立ち上げたが、どうしてもpHと硬度が下がらない場合
● ご家族の視線が冷たいアフリカンマニアの方で、素人受けする水槽作りの必要性を痛感しておられる場合(笑)
このようなケースであれば、あえてアフリカン+水草水槽にチャレンジされてみる価値があるかと思いますが、それ以外の場合には無理にお薦めしない、というのが私の正直な意見です。

底床
 十数年前のアフリカンシクリッド流行時には、アフリカンシクリッド用の底床と言えばサンゴ砂でしたが、サンゴ砂の底床ではミネラル分に根をやられてしまい、水草を育てることは難しいかと思われます。これが、”アフリカンと水草の両立はムリ”、という常識が定着してしまった原因のひとつかと思います。しかし、当時に比べ、現在ではいろいろ底床用の商品が出回っており、アフリカン水槽でも選択の幅が広がりました。
 アフリカン+水草水槽には底床選びが最も重要で、セラミック系などのpHやGHを変化させない底床が最適だと考えます。そういった底床を使い、底床内のpHや硬度はあまり上げず、水だけを高pH・高硬度にできれば、水槽内で育成できる水草の種類の幅が広がるでしょう。サンゴや貝殻のような硬度を上げる物質を水草の根に直接触れさせないのがキモです。
(ただ、実際には、セラミック系底床は、商品により、いくらかpH・硬度を上げるものもあるようです。拙宅の底床は、サンゴなどを入れなくてもpHは8、GHのほうは5〜6ぐらいになります。)
 サンドシクリッドのような魚を飼育する場合、パウダー状の砂が必要になりますが、パウダー状の砂は水草の根張りが悪い場合もあるかもしれません。

水質
 現在拙宅の水槽の水質はpH8・GH8〜10を目安に管理をしています。この辺りの値なら、魚,水草共に妥協出来る水質でしょう
 水草のことを考えればpHとGHは下げるにこしたことはありませんが、私の経験では、もう少しpH、GHとも高くても水草は維持できるように思えます。基本的には魚の好みを優先してよいかと思います。
 拙宅では水質調整にサンゴ砂を使っており、これを1〜2握りほど外部フィルターに入れてあります。サンゴは常に硬度物質を放出するので、拙宅の水槽ではこの程度の量のサンゴでも、ちょっと水換えをサボるとGHが20近くまで上がってしまうことが珍しくありません。週1の水換えは必須です。
 少し前まではサンゴを直接水槽に入れず、換水用の汲み置き水の中に入れておく方法をとっていました。この方法だと硬度が極端に上がることはありませんが、気をつけていないと逆に硬度が下がってしまうことがありました。
 水槽ごとの個体差かもしれませんが、pHに比べ硬度は比較的よく変動するようですので、週1の水換え時の硬度チェックは欠かさないほうがよいでしょう。

照明
 水草のことを考えれば光量は強い方がよいのですが、アフリカンシクリッドは深場に棲む種類が多く,あまり強い光を好まないようです。照明が強すぎると魚が臆病に育つ傾向があるように感じます。また、高pH・高硬度の水は、水草の大敵である苔を発生させやすく、むやみに光量を上げると苔に悩まされます。
 こういったことを考えて、拙宅では標準的な蛍光灯(60cm水槽で20W蛍光灯2本)を使用し、強光でなくても育つ水草を中心にセレクトしています。有茎草をメインとしたい場合、もう少し光を強められれば、かなり水草の選択肢が増えるかと思います。また、アフリカンシクリッド水槽でよく見られるような蛍光灯1本だけの光量だと、陰性植物中心の水景とせざるを得ません。
 照明を強くする場合、魚が安心して暮らせるよう、浮き草を入れたり丈の長い水草を水面にたなびかせたりして、水槽内に出来るだけ暗い部分を作り、その下に魚の生息場所を置く、といったレイアウト上の配慮も必要になります。

CO2の添加
 拙宅の水槽ではCO2の添加はしておらず、CO2の添加なしでも育つ水草を中心にセレクトしています。ただ、CO2の添加なしだと、草体は育つには育つのですが、美しく育てるのはなかなか難しいです。この点から、マメな草体のメンテナンスが必要です。
 CO2を添加するとpHが下がったり硬度が変化したりする可能性がありますが、添加量を程々にして水質のチェックをきちんとしていれば問題はないのではないでしょうか。実際にアフリカン水槽にCO2を添加している例を見たことが有ります。ただ、水草水槽の世界でしばしば言われていることですが、CO2を添加するつもりなら、水槽立ち上げ時の最初から添加した方がよいようです。現在稼働中の水槽に新たにCO2を添加し始めると、水質や微生物層の変化などのトラブルを招く恐れがあるからかと思われます。現在稼働中の水槽に新たにCO2を添加される場合はそのリスクを考慮に入れて慎重に行って下さい。

濾過
  アフリカン+水草水槽では、水草のおかげでアンモニアや亜硝酸の濃度は上がりにくいのですが、魚が大食いで糞が多く、さらに枯れた水草の葉の繊維などのゴミが加わるので、濾過器の容量も標準的な水草水槽よりは多少大きい方がよいかと思われます。物理濾過専用のプレフィルターが使えれば、それも有効でしょう。
 アフリカンシクリッドマニアの方々の間では上部濾過を使用されている方が多いですが、その場合,水草を植えるためにわざわざ外部濾過に買い替える必要はないかと思います。水草水槽における上部濾過式のデメリットとして、
●水中のCO2がにげやすい。
●蛍光灯を増設できない/濾過槽の下が影になり草を植えられない。
●濾過槽の下の部分のトリミング作業がやりにくい。
等があげられますが、低光量,CO2無添加で育つ草を中心に使い、上部濾過槽の影になる部分に岩のシェルターや陰性植物を配置するなどしてレイアウトデザインをうまく工夫すれば、上記のデメリットはさしたる問題にはならないでしょう。
 濾過槽が汚れやすく、割とよく掃除が必要になるので、案外上部フィルターの方が適しているかもしれません。
 なお、アフリカンシクリッドは酸素消費量が多いのでしょうか、拙宅の水槽では夜間の植物の酸素消費によるダメージがこたえるようで、朝、電気をつけると魚の呼吸が速くなっていることがあります。拙宅の場合、魚の数はかなり少ないにも関わらずこのような状態ですので(水草の量が多すぎるのか?)、密閉式外部フィルターを使用される場合はよく注意し、必要ならエアポンプやディフューザの使用を検討して下さい。

苔対策
 
高pH・高硬度の水質は苔(特に藍藻や黒髭)が生えやすい環境です。特に藍藻は見つけ次第すぐ水槽から出してください。急に藍藻が殖えてきた場合は、硬度の上がり過ぎか、濾過器や底床内のバクテリアのトラブルを疑って下さい。
 薬品や生物兵器(エビやオトシンなど)といった事後対策は功を奏しにくいので、高pH・高硬度下では普通の水草水槽以上に根本的予防策が重要になります。
■ 出来るだけ大量に成長の早い水草を植え込み(底床面積の6〜7割以上を埋める水草の量が目安とされる)、水中の栄養素を全て水草に吸収させてしまう。底床にたくさん植えられない場合は、ウィロモスや浮き草を活用。
■ 魚は入れすぎない。エサはやりすぎない。
■ 一旦安定したら、水槽内の魚や水草の量を極端に変えない。
■ 底床を過度にかき回したり、一度に大量に水草を抜いたり、頻繁に大掛かりなレイアウト変更をしたりすることは慎む。
 アフリカン+水草水槽での対苔生物兵器には、今のところあまり有効打がありません。拙宅ではヤマトヌマエビとオトシンクルスを入れています。
 エビ類はシクリッドのエサになりやすく、また、高いpH・GHは、あまりエビにとって適していないようです。アフリカンシクリッド水槽へのエビの投入は、不可能ではないですがお勧めしません。
 オトシンクルスは、いったん馴れれば高pH・高硬度下でもわりと元気ですが、水槽への導入時に調子を悪くさせてしまう可能性が高いので、購入店選び・個体選び・水合わせは慎重に。また、水質のせいかエサのせいか、拙宅のオトシンは元気な割にまったく成長しません。あと、オトシンはひれにトゲがあって、オトシンを食べた魚のノドに引っかかり、その魚を死なせてしまうことがごくまれにあるそうです。魚食性の大型魚との混泳は避けた方が無難でしょう。

スネール対策
 高pH・高硬度下の水草水槽ではスネールに悩まされる可能性があります。
スネールは高pH・高硬度の水を好みます。これは貝殻の形成に必要なカルシウム分が水中に多く含まれおり、くわえて、高pH・高硬度下では餌となる苔が発生しやすいからかと思われます。したがって、アフリカン+水草水槽ではスネール対策は重要なテーマかと思われます。
 日常的に、水槽に投入する魚の餌の量のコントロール、定期的な水換えと底床・濾過器の掃除、水質の安定化、苔の予防などに努めていれば、スネールの個体数はある程度コントロール出来ます。私の経験では、人の手で間引きする程度では追いつかないようなスピードでスネールが異常発生する場合は、たいてい濾過がうまくいっていないか、水槽内の食物連鎖がうまくいっていないかのどちらかで、水の状態が悪く、同時に藍藻も大発生していることが多いようです。こうなると、スネールだけを退治しても無意味で、リセットも含めた飼育スタイルの根本的な見直しが必要です。スネールは環境がよいから大発生するのではなく、環境が悪いので1匹でも多く子孫を残そうとして大発生するように思われます。安定した環境ではスネールの個体数は増えない、もしくは増え方がゆっくりで、水草を丸坊主にしてしまうようなこともありません。
 そういう観点で考えれば、スネールは水槽の状態を見る為の良い目安になるとも言えます。実際、拙宅の水槽のスネールをよく観察していると、硬度や濾過状態の異変が目に見える形で現れます。
 高pH・高硬度下の水槽ではスネールを根絶することが難しいですので、むしろ考え方を変えて、スネールを上手にコントロールしながら共存させてみるのも一興でしょう。アフリカンシクリッドは丈夫な種類が多く、多少の環境の悪化なら我慢してしまうので、環境の悪化を見落としてしまうことが多いように感じます。スネールを共存させることで、環境センサーとしてのスネールの役割も期待できるかと思います。

メンテナンス
 水草水槽の世界では、「底床と濾過器はあまり掃除しない方がよい」とおっしゃる方もおられますが、カラシンなどの小型魚とは違って、アフリカンシクリッドの場合はどうしても代謝が激しいので、週1の水換えに加え、定期的な濾過槽(物理濾過部分)と底床の掃除は欠かさない方がよいでしょう。プロホースなどの底床掃除用の道具は必需品です。水換えや掃除の頻度にムラがあると、苔が出たり育成難易度の高い水草がダメージを受けたりします。
 また、掃除の際には水面に浮いた水草の葉も取り除いて下さい。アフリカンシクリッドは食い意地が張っているせいか、餌の時に興奮していると餌と一緒に水面のゴミを見境いなく飲み込んでしまいます。たいていは吐き出してしまいますが、ごくまれに、びっくりするような大きな葉を飲み込んでしまい、うまく吐き出せずに喉に詰まらせることがあります。
 トリミングなどの水草のメンテナンスは通常の水草水槽の場合に準じますが、
高pH・高硬度下の水槽は水草にとって過酷な環境ですので、あまり景気よくハサミを入れると草体を弱らせる場合があります。草体の健康状態や成長スピード・残っている葉の枚数などを考慮してトリミングやカットの量を決めて下さい。
 なお、苔対策の一環として、拙宅では肥料は底床に埋め込む固形肥料をメインとし、苔に吸収されやすい液肥はポイント的に使用するのみにとどめております。


 魚に関してはあまり飼育キャリアが無く、以下に書くことは私の推測に因る部分が多いのでご了承願います。
 多くのアフリカンシクリッドは日常生活や産卵に底砂を必要とします。そのため、砂を掘って水草を抜いてしまうことが多いようです。これらの魚を飼育する場合は、水草の量を減らし、底砂の一部を露出させて産卵や採餌の場所を確保する必要があるでしょう。砂場の面積が制限されるので、入れられる魚の量も少なくなりますが、その辺りは妥協が必要でしょう。砂場・シェルター・水草エリア、と、水槽内にかなりいろいろな要素が盛り込まれるので、レイアウトデザインもシビアになります。
 水草水槽では、いったん作ったレイアウトを頻繁に変更できません。また、水草を植える分水槽が狭くなるため、入れられる魚の量も大きさもある程度限られます。そのため、ムブナやトロフェウスなどの場合ように、激しい縄張り争いを防ぐために過密飼育や頻繁なレイアウト変更をおこなうケースでは、水草水槽化が難しいかと思われます。
 また、多くのマラウィ湖産シクリッドは底床を掘り返したり水草を齧ったりすると聞きますので、水槽内レイアウトデザインや水草の種類の選択がシビアになるでしょう。
 一番無難なのはタンガニイカ湖産小型種で、キプリクロミスのように底床に依存しないで生活できる魚か、岩場や貝をシェルターとするランプロローグス,ジュリドクロミス,パラキプリ類などかと思われます(ただし、フェアリータイプのランプロは、かなり底砂を掘り返すと聞くので、要注意)。
 非シクリッドで混泳出来そうな魚種については現在研究中。

キプリクロミス・レプトソーマ キプリクロミス・レプトソーマ

  この魚は採餌や産卵で底床を必要とせず、オープンスペースに生活するため、アフリカンシクリッド水槽で空きがちになる水槽中〜上層部を埋める魚として重宝します。アフリカン+水草水槽にもっとも適するとおもわれる魚種のひとつ。
 ただ、水草水槽のように隠れ家に事欠かない水槽でオスを1匹飼いしていると、岩穴や水草の陰に隠れて出て来なくなることが多いようです(こうなると、餌食いが悪くなるので給餌に気を使う。ただ、ちゃんと産卵はするので、健康上の問題はなく、メンタルなものであるように思える。)。
  Ad Koningsによれば、野生のキプリクロミスは、オスとメスで別の群れを作るようなので、水槽内に何匹メスがいたところで、オスが1匹しかいなければ、そのオスにとっては1匹飼いされているのも同様なのでしょう。これを防ぐには、水槽内のオープンスペースの取り方や、水槽内での飼育個体数も検討する必要があるようです。水草水槽ではオープンスペースをあまり広くとれないので、60cm水槽では小型のレプトソーマ種であってもオス1メス2のトリオ飼育が限界。60cm水槽でも飼えますが、やはり大型水槽が欲しいです。
 オスが激しくメスを追い回すので、背の高い水草を何本も植えてやると良いでしょう。メスがその水草の裏に回り込むと、オスはそれ以上メスを追尾しなくなるようです。メスの飼育数が少ない場合(2〜3匹)、メスは臆病になりがちで、かつ、メス同士でも縄張りを主張するようになります。個体ごとに薄暗い隠れ場所を用意してやってください。(飼育数が多い場合は群れになって水槽前面のオープンスペースへ出てくるようだ。)
 なお、メスは口内保育をする関係か、緩い水流がある場所を好みます。

アルトアンプロローグス・カルバス

 白黒のカラーリングは、意外にも、どんな色の水草ともマッチします。
 エサとしてミナミヌマエビを入れてやると、日頃のノホホンとした態度とはうって変わり、水草のジャングルに隠れたミナミを狩り出す野性味あふれるハンターとしての顔を見せてくれます。
 土木工事が大好きでブルドーザーのように底床を掘りますが、掘るのは自分のシェルターの中だけで、植えてある水草を抜いてしまうことはありません。
 他種を攻撃することはないと言われますが、拙宅では、水槽に導入した最初の1〜2か月の間は、自分の縄張りを確保するため激しく他魚を攻撃する様子が見られました。
 彼らは水草に対して全く注意を払いません。ジャングルのような茂みであっても、そこを隠れ家にすることはないので、必ず石や流木を入れてやってください。石と流木では、やはり石を好みます。彼らにはちゃんと素材の違いが分かるのかもしれません。

レイアウトデザイン
 既に上でいくつか書いてありますが、アフリカン+水草水槽におけるレイアウトデザインについての具体的なノウハウについては、いちいち書き出すとキリがないので、ここでは大まかな注意点を2点のみ述べるだけにしておきます。
 アフリカンシクリッドは、湖の様々な環境に適応する形で特殊化してきた魚たちですので、飼育する魚種の生態に合わせたレイアウトデザインが必要になります。また、アフリカンシクリッドは個体ごとの性格の違いが大きく、購入した個体の性格(ケンカっぱやい、とか、臆病、とか)によっても適するレイアウトデザインが異なります。そのため、新しい魚を購入してしばらくの間は、その魚の生態の観察と、それにあったレイアウトデザインの模索が続くことになります。故に、アフリカン+水草水槽では、クリプトなどの植え替えを嫌う水草を使う場合に注意が必要です。水槽立ち上げの際は、ハイグロやロタラ、ウィロモスなどの植え替えを気にしなくても良い水草を中心に購入し、植え替えを嫌う水草を投入するのは、魚が落ち着いて水槽内のレイアウトデザインもある程度まとまってきてからにして下さい。
 アフリカン+水草水槽におけるもうひとつの問題点は、アフリカンシクリッドと水草のカラーマッチングの悪さについてです。有茎水草に多く見られる鮮やかで明るい黄緑色は、アフリカンシクリッドによく見られるメタリックブルーやレモンイエローとのマッチングがよくありません。黄緑色とメタリックブルーを組み合わせるとブルーがどす黒く見え、黄緑色とレモンイエローを組み合わせると、レモンイエローが黄緑色に溶け込んで目立たなくなります。また、タンガニイカ湖産の小型シクリッドのようなデリケートで優しいカラー(ex. N.ブリシャルディやカウドプンクタトゥス、クセノティラピア類)は、有茎水草の鮮やかな黄緑色に負けて目立たなくなってしまうでしょう。こういった観点から見ても、アフリカン+水草水槽においては、どのような種類の水草を選び、それを水槽内のどこに配置するか、と言ったレイアウトの問題がシビアになります。
 アフリカン+水草水槽においては、水質や魚の特性に由来する制約が多く、レイアウトデザインが大変難しいものとなります。そのため、魚の生態の徹底的な観察と、水草を含めたレイアウト素材への造詣、難しい要件をクリアするためのアイデアをひねり出す発想力が要求されます。しかしながら、制約が多くて難しいからこそ面白いテーマであるとも言えます。
 アフリカンシクリッドの水槽レイアウトデザインは、美観のみでなく、魚1匹1匹の個性を考慮した住居としての機能も重要なファクターになって来るため、さながら、魚のための庭付き注文住宅を設計するのにも似ています。「美観と機能」、この両者を両立させ、魚にとっても鑑賞者にとっても快適な空間を作ることがアフリカン+水草水槽のレイアウトデザインの醍醐味かと思います。 

 

高pH・高硬度の水でも育つ水草

 以下は拙宅で得られた代表的な水草のこれまでの実績です (◎○△×の記号は、向き・不向きの度合いを示しています)。

◎ ハイグロフィラ・ポリスペルマ

 丈夫で育てやすく、養分の吸収もよいのでたくさん植えれば苔対策にもよいです。スターティングプラントとして一番適してます。
 ただし、高pH・高硬度の悪条件のせいか、夏場の高水温に弱く、溶けたり矮小化したりしやすくなります。一度調子を崩すともとに戻りません。
 夏場はトリミングしたものを植え直してもまず根付きません。30度付近の水温が続く時は、元気な株は出来るだけいじらないようにし、調子を崩した株はあきらめて早めに捨ててしまってください。

 

◎ ヘテランテラ

 非常に丈夫な水草で、光がよく当たる場所では上に伸びず地面を這って緑の絨毯を作りますので、水槽前景にオープンスペースを広く取りたい場合に便利です。根張りもよいので、小型の魚なら、いったん根付けば引き抜かれる心配もないでしょう。
 ハイグロほどではありませんが、やはり暑さに弱いです。
下葉が黒ずんで痛みやすいですので、古い葉をマメにカットするか、時々株を間引いて絨毯の下の水の流れを良くするかして、痛んだ下葉の腐敗を防ぐ必要があるので、メンテナンスにやや手間がかかります。
 底床が古くなってくると成長が悪くなるようです。数ヶ月に一度引き抜いて、プロホースなどで底床の底の方まで掃除して植え直して下さい。その際、底床をいじると濾過バランスが崩れますので、一度に全部掃除せず、部分的に期間を置いて行って下さい。なお、この草は埋め込み式底床肥料が必須だと思います。

 

◎ ロタラ・ロトンジフォリア / ロタラ・インディカ

 両種とも丈夫で育てやすく、夏の高水温にも強いです。
 高pH・高硬度の水槽では先端部に藍藻がつきやすいので要チェック。
 先端が水面に達するのが早いので、拙宅ではその性質を利用し、この草を密集させてカーテンのような壁を作り、キプリのオスとメスの縄張りを分断するように配置し、オスの攻撃からメスを守るのに利用しています。植えて根付いたら、先端部のみ1〜2cmほどカットしてみて下さい。そこから二股に分かれて成長していきますので、これを繰り返すと、少ない本数で厚みとボリュームのある、密度の高いカーテンが出来ます(何ヶ月もかかりますが)。

 

 ○ エキノドルス・テネルス

 丈夫でよく増えますが、葉が細いのでヘテランテラのようなボリュームはなく、底砂を覆い隠すような緑の絨毯を作るのはむずかしいでしょう。また、根張りが浅いので、底砂を掘り返す魚によって簡単に抜かれます。光がよく当たると葉が赤茶色になり、いまいち美しくありません。
 したがって拙宅では、少ない面積で高い密度を実現するために、後景の茂みの下草として背の高い草と草の隙間に植えることが多いです。


  ○ ヴァリスネリア・ナナ

 どうも夏の高温時に調子が良くなるようです。
 冬場に購入すると、水槽に植えてから数ヶ月の間はどんどんみすぼらしくなっていきますが、あきらめずにしばらく待ってみて下さい。拙宅ではずっとE.テネルスと見分けがつかないような状態でしたが、半年位した夏場、突然巨大化して水面にトグロを巻きました。ただ、葉の数はあまり増えないので、長さの割にボリュームは少なめです。
 育ちが悪いようなら、明るい場所で、かつ、出来れば他の草からすこし離して植えてみて下さい。

 

 

◎ クリプトコリネ・バランサエ

 野生では石灰岩質で高pH・高硬度の水域に生えているそうです。そのため、アフリカンシクリッド水槽でも丈夫に育ち、他のクリプトのように溶けてしまうことも少ないようです。
 クリプトにしては葉がよく増え、成長も速いので、拙宅では、苔がついたり痛んだりした葉はわりと遠慮なく根元からカットしています。巨大化するので小型水槽には不向きですが、少ない株でも見栄えがし、根張りがすごくて簡単には抜けないので大型アフリカンの混泳水槽にも使えるでしょう。 
 C.レトロスピラリスもこの種に準ずると思われます。
 クリプトコリネは根が命。底床肥料を与え、むやみな植え替えは控えて下さい。

 

○ クリプト類

  安価で丈夫な種であれば高pH・高硬度下でも育成可能。
 クリプト類は陰性植物とされていますが、蛍光灯2灯程度であれば、むしろ光の当たるところに植えた方が成績が良いようです。

 

 

 

○ アヌビアス・ナナ

 古くて苔にまみれた葉を時々カットしてやると草体内の代謝が活発化して新しい葉を出しやすくなるようです。ただ、やはり新しい葉が出るスピードより、古い葉に苔がつくスピードの方が速いです。
 噂に違わず、丈夫でまず枯れることは無いですが、きれいに育てるのは至難の業です。
 ランプロなどのための石組みシェルターに活着させます。

 

 

○ ミクロソリウム

 水槽の環境に慣れるのにかなり時間がかかりますが、いったん慣れれば丈夫でよく殖えます。
シダ病を防ぐために、夏場はちょっとでも痛んだ葉はどんどんカットして、葉の密度を減らして下さい。
 ランプロなどのための石組みのシェルターに活着させます。

 

 

 

◎ ウィロモス

  きれいに育てるには定期的なトリミングとある程度の光が必要です。なるべく小振りな石や流木に活着させて、水槽から取り出しやすい場所にレイアウトするのがトリミングをしやすくするためのコツ。月に一度ほど伸びすぎた部分をカットし、水換えで水槽から出した水の中ですすいで、カットかすと茂みに潜り込んだゴミを落とします。そして細いテグスで岩や流木に固定し、活着してもテグスを外さないでおきます。そうすると細かい破片を水槽内にばらまいて水景を汚すことが少ないです。
 水質に無頓着で、よく殖えよく育つので水の浄化能力も高いです。「水草自体にはそれほど興味ないし、植える場所も無いけど、水草の水質浄化能力が利用出来ればうれしい」と考えておられる方におすすめ。「南米風」とか「東南アジア風」「日淡風」と言ったように水景のイメージを固定されないのも良いところで、アフリカン水槽に使用してもそれほど違和感が無いように感じます。

 

○ サルビニア・ククラータ

 アフリカン+水草水槽では、浮き草はかなり利用価値が高く、底床に大量に水草を植えられない場合の水質浄化の補助戦力としたり、魚が安心して暮らせるよう日陰を作ったり、産卵箱に入れ稚魚の飛び出しを防いだりするのに利用します。
 しかし、浮き草は繁殖力が強く丈夫に思われがちですが、葉が水面上に出て外気に曝されるためか、夏場の高湿度や冬場の低気温に弱く意外にデリケートです。季節に合わせて水槽の蓋を使用したり外したりして気温と湿度のコントロールをする必要がありますが、アフリカン水槽では魚の飛び出しが多く蓋は必須なので、出来れば夏場はメッシュの蓋などを使った方がよいでしょう。
 本種は他の浮き草に比べて夏場のムレや冬場の低温に強いようです。また、他種に比べ成長がゆっくりで古い葉が痛みにくく、根も短いので、水景の美観の維持,メンテナンスの面でも楽です。水流に流されて勝手に移動してしまうので、拙宅では吸盤とテグスで水面にイケスを作り、その中に囲い込んで、魚のシェルターの上に来るように水槽内での位置を固定しています。

 

△ カーナミン

 水質のせいか、CO2なしのせいか、あるいは光が弱いせいか、長期的には葉がかなり小振りになり、「大型のパールグラス」といった風情になってしまいます。ただ、矮小化にはそこそこ時間がかかるので、それまでは楽しめます。もともと有茎にしては成長が遅い種類ですので、CO2なしでは大群生は期待しない方がいいかもしれません。あまりに葉が小さくなってしまうようでしたら、なるべく明るいところに植えて液肥を使用してみて下さい。濃いめに水にといた液肥を注射器で少量ずつ底床に注射してやるのも効果的です。
 下葉が落ちにくく長持ちしますが、反面苔がつきやすくなります。

 

 

△ ニドルリーフ・ルドウィジア

 夏の高温にはかなり弱いです。
  高pH・
高硬度下では成長のスピードが遅く、ボリュームも少なくなるようです。また、暗いところに植えると赤みが薄くなりやすいです。

 

 

 

 

△ アマニア・グラキリス

 非常に美しく、しかもある程度高pH・高硬度への耐性があります。ただし、長期にわたって美しい姿を保つのは非常に難しいです。水質の変化に極端に弱く、硬度が急変すると先端の成長点が死んでつぶれてしまいます(ただし枯れはせず、再び成長を始めたり、別の脇芽を出したりします)。
 また、他の草が覆い被さって光量が減ったときも同じような状態になりますので、他の草から離して明るいところに植えるとよいでしょう。
 高水温がお好みのようで、夏場は比較的美しく安定して成長しますが、冬場は成長が悪くなり、新しい葉が生える速さより下葉が枯れる速さの方が速いため、だんだんショボくなっていきます。通年楽しみたければ水温を27〜28℃にセットするとよいかと思います。育成は難しいですが、育て甲斐のある草です。

 

× アマゾンチドメグサ

どうやっても矮小化します。なぜ?

 

× ラージリーフハイグロ

 一見育っているように見えますが、下葉が全部落ち、茎の根元が腐ってきます。大型ハイグロ類はかなり難しそうです。チャレンジするならタイストリクタかテンプルプラントの方がよかったかもしれません。

 

 

 

 

× マヤカソウ

  最初の1ヶ月は爆殖しますが、次の2、3ヶ月で消えてなくなります。そもそもpH・硬度以前に標準光量・CO2無添加で育てる草ではないようです。

 

× ウォーターレタス

 ムレにも冬期の低気温にも弱いようで、最初は爆殖するが。株はどんどん矮小化していき、長期的には消えてなくなりました。代謝が激しくて枯れ葉がじゃんじゃん出るのでメンテも大変。あまりお勧めしません。

 

その他、現在挑戦中のもの

・ ニューオランダプラント → 水温が低ければ結構いけるが、夏場の高温でアウト。

・ グリーンロタラ → 全く問題がないが、よく似たロタラロトンジ/インディカと比べるとやや弱く、成長も遅い気がする。現在ロタラロトンジ/インディカにまぎれてしまって識別不能。(笑)

 

トライする価値のありそうな水草(保証ナシ)

クロモ/キクモ/マツモ/インバモ/ササバモ/リシア/テンプルプラント/ハイグロフィラ・タイストリクタ/ミズヒマワリ/メキシカンバーレーン/ウォーターバコパ/ルドウィジア・グランデュローサ/ハイグロフィラ・ロザエネルヴィス/タイニムファ/タイガーロータス/ニムファ・ミクランサ/バークレア/バリスネリア・スピラリス/コークスクリュー・バリスネリア/ヤマザキカズラ/アポノゲトン・ウルバケウス/アポノゲトン・ボイヴィニアヌス/アヌビアス属/安価でポピュラーな種類のクリプトコリネ/クリヌム・ナタンス など

 

 おおざっぱに言えば、丈夫でCO2の添加無しでも育成できる種ならたいてい試してみる価値はあるが、強光が必須の草や高硬度が苦手な南米産や高温に弱い北米・欧州産は避けた方が無難、といったところでしょう。
 私の経験では、魚の場合、pHやGH、水温やアンモニア/亜硝酸濃度といった、数値化できて目に見えるパラメーターが分かれば、あらかじめうまく飼えるかどうかの予測がある程度つきますが、水草は、そういったパラメーター以外の要素に成功を左右されることも多いので、実際に水槽に植えてみなければうまく育つかどうか分からない場合が多いです。言い換えれば、水槽1本1本で育成ノウハウが異なる、とも言えます。
 そう高価な水草でなければ、「迷う前にまず試せ」というスタンスでいろいろチャレンジしてみて下さい。失敗覚悟で買った草が意外に簡単に育ったり、逆に、初心者向けと言われる草が全く育たなかったりして、なかなか奥が深いものがあります。
 


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