水質管理の指標
  


02.09.21


 

 私たち人間が大気の中で生きているからといって火星や金星の大気の中でも生きられるかと言えば、もちろん不可能です。それは魚や水草も同じです。水の中で生きているからと言って、どんな水の中でも生きられるわけではありません。さらに、たとえ彼らの適応できる範囲の水質であっても、突然異なった水質の水に入れれば死の危険にさらすことになります。
 しかし、水質が魚や水草の適応できる範囲内にあるかどうかは目で見て簡単に判断できるものではありません。濁りぐらいは確認できても、酸性なのかアルカリ性なのか、硝酸が多いのか少ないのか、といったことは無理です。
 そこで、水質を知る目安として使われるのが、pHやKH、GH、硝酸量といった「指標」です。ここでは、この「指標」についての基本的なところを押さえてみたいと思います。以下の知識はベテランの方にとっては「なんや、こんなん当たり前のことやんけ」というぐらい常識的な知識です。したがって、初心者の方は、ここでしっかり頭に入れてしまいましょう。

1.よく使う指標の種類

 水草水槽よく使う指標には以下のようなものがあります。

(1) 水温 :最も重要な指標で、水温計で計測します。最適な値は育成している生体の種類によって違ってきますが、一般的に、南米(アマゾン)産の魚や水草の場合は25〜27度あたりです。

(2) pH :「ペーハー」、あるいは「ピーエイチ」と読みます。水の酸性度とアルカリ度を示す指標で、pH7は“中性”であることを、7未満は“酸性”であることを、7超は“アルカリ性”であることを示す。
 水質を管理する上で、水温に次いで重要な指標で、測定には試験紙か試験液、あるいはペン型の電子式測定器を使うのが一般的。

(3) KH :「ケイエイチ」と読む(ドイツ語読みなら「カーハー」)。炭酸塩硬度を表わす指標で、水草の育成ではpHの次に重要な目安になる。水中の陰イオンの量(主に炭酸水素イオン)を測定する。
 また、この値は水中に溶けている二酸化炭素の量によっても変動するので、二酸化炭素の溶け具合を知る手掛かりにもなる。
 アマゾン産の生体を育てる場合には、この値が低くなくてはならない場合が多く、4以下、できれば0〜1になるように水を調整する。
 測定には、試験液タイプを使うことが多い。

(4) GH :「ジーエイチ」と読む(ドイツ語読みするなら「ゲーハー」)。この指標は、ADA社が使っている基準のTH(Total Hardness)にあたり、総硬度を表わしている。カルシウムとマグネシウムの量を、イオン化しているものもそうでないものも含めて測定する。南米アマゾン産の生体には、3以下であることが望ましいとされている。
 GHは、アクアリウムを始めるときに、水槽に使うつもりの水道水や井戸水について必ず調べるべきもので、この値が最初から10を超えるような地域では、軟水器の購入をお勧めしたい。換水するとき、毎回GHの値の高い水を水槽に入れてから低く調整するのは、たいへん面倒かつ困難なので。
  ただしGHは、いったんアクアリウムを維持し始めれば、あまり測る機会はない。GHの値を変化させるもの、たとえば岩石などをレイアウトに使っている時に測るぐらいである。ふだんは専らKHの方を目安にする。
 測定には、試験液を使うことが多い。

(5)アンモニア量 :人間の小便にも入っている、あの鼻を刺すような強烈な匂いの物質である。魚の排泄物からも発生する。水が酸性である場合はほとんどがアンモニウムイオンになるので問題が発生することは少ないが、水がアルカリ性の場合は魚にとって猛毒となる。
 水槽をセットしたばかりのときはアンモニアを分解するバクテリアが水槽内に十分定着していないので、この値が高くなることがある。ただし、次に出てくる亜硝酸塩量を測っていれば、特にアンモニア量を測る必要はない。勉強のために測るのは良いことだとは思うが。
 測定には、試験液を使うことが多い。

(6) 亜硝酸量 :アンモニアと同じく生体にとっては猛毒である。アンモニアがバクテリアに分解されて発生する物質で、バクテリアが少ないうちは水槽の中で蓄積するので、セット初期にはしっかり測る必要がある。はじめてセットするのなら、必ず頻繁に測るべきものだ。
 測定には、試験液を使うのが一般的である。

(7) 硝酸塩量 :アンモニアがバクテリアに分解されて亜硝酸に、そしてその亜硝酸がさらにバクテリアに分解されて発生するのが、硝酸塩である。
 硝酸塩そのものは生体に対する毒性が低いのであまり問題にしなくてよい。しかし一部の魚には、硝酸塩が水槽内に溜まり過ぎると体調を崩すものがあるので、そのような生体を収容している場合は、硝酸塩を蓄積させ過ぎないように注意しなければならない。
 ただし、水草水槽では、水草が旺盛に育っていれば、発生する硝酸塩の一部、あるいは大部分が窒素肥料として水草に吸収される。水草に吸収されなかった余分な分だけを換水によって水槽の外へ汲み出せば良い。
 したがって、実際の水槽の維持で、硝酸塩量を測る機会はあまり無い。もちろん、定期的に測っておくと勉強になるので、できれば測っておきたい。
 測定には、試験紙タイプが手軽で良い。

・ その他 水道水の残留塩素量、藻類の発生と深く関わる燐酸塩量、水中の導電性物質の量溶存酸素量溶存二酸化炭素量などを測ることがあるが、あまり一般的ではない。
 

● 以上の中で、必須と言っても良いものに絞りこむなら、「水温」・「pH」・「KH」の3つである。
 加えて、水槽をはじめて設置するのなら「GH」と「亜硝酸」も測るべきだ。その他はやる気に応じて測定器具・試薬を揃えれば良いだろう。

 

2.指標を使う場合に必要な知識

 指標の「種類」に加えて、更に知っておかねばならないことがある。それは、指標の「扱い方」である。

(1) まず、「これらは水質管理に必要な要素のごく一部を測っているに過ぎない」ということを分かっていないといけない。
 水の中には、言うまでもなくカルシウムイオンやマグネシウムイオンだけが溶けこんでいるわけではない。実に様々な物質が溶け込んでいる。そしてそれらによって、水は様々な性質を帯びている。
 したがって、pHやKHなどを測ったところで、それは様々な種類の水を限られた一面から分類して把握しているに過ぎない。そして、pH、KH、GH、硝酸塩量などの値がまったく同じ水同士を比べた場合、それぞれ性質がまったく違っていたとしても、それはごく当たり前のことだと言える。このことは、例えば次のような事象で体験できる。

・ 熱帯魚や水草などを別の水槽に移すため、今まで育てていた水槽のpHやKHなどの値とまったく同じになるように時間をかけて調整した水を用意し、それからそこへ丁寧に魚などを移したとしても、前と同じようには育たないことがある(良くなったり悪くなったり)

・ 逆に、水草や魚の様子、コケのつき具合などからpHやKHを予想しても、実際に計測してみるとまったく違う値が出ることもある

 このような現象は、私たちが測定している要素以外の要素が関与していることが原因だ、と考えるのがもっとも合理的であろう。

(2) 更に、(1)から「pHやKHなどの条件をすべて揃えてもうまく育つとは限らない」ということも導かれる。
 pHやKH、GHといった指標の値がみな同じであっても、それら以外にも測られていない要素が多数存在する以上、厳密には同じ条件とは言えないのであるから、結果として生体が同じ育ち方をしなくてもそれは当然のことと言える。
 そして、この知識が必要になるのは、次のような場面である。

・ 本やサイトできれいに育っている魚や水草の写真をみつけ、「自分もこんなふうに育てたい」と思った。そこで、載っていたpHや光量などのデータと同じ条件を自分の水槽にも揃えた。しかし、なかなか写真にあったようには育たない

・ ある掲示板で相談したら、「pHやKHの値が〜のような水質が良い」と教えてもらった。そこでその水質を作ってみたが、言われたようにはならなかった

 このような場面で、その本や掲示板で教えてくれた人を「嘘つきだ」と恨んでみても仕方がない。それは、“そういうもの”なのである。理由は、上述の通りである。我々が測れていない要素が水に存在する限り、測った要素はあくまでも指標=目安の一部に過ぎない。一部を同じにしたからと言って、全部同じ結果になるはずがない。データを示してくれた側も、その範囲で読んでもらうことを予測している。

(3) したがって、「本やアドバイスで示される指標は、あくまでも“目安”として読むべきもの」と心得ておかねばならない。

 逆に、その目安すらもたないで水槽を維持するのはたいへん難しい。pHやKH、GHなどの指標は、長年水槽を維持してきた多くの先人の方たちが、経験や知識から「これらの要素ぐらいは把握しておかねば維持は難しい」と判断されたものである。そして、その中から我々が実際に家庭で計測できる現実的な可能性をもった指標が残ってきているわけである。

(4) よって、「pHやKH、GHなどは、水質を把握するための最低限の目安」という性格をもつ。

 

3.まとめ

● よく使われる指標の「種類」は、水温pHKH
  水槽のセット時には、GH亜硝酸も。
  その他は必要と探求心の強さに応じて。

● 指標の「扱い方」 :指標はあくまでも水質を把握する「目安」に過ぎない。但し、水質は、測らなければほとんど把握できない。その両面があることをよく心得て扱うべし。

 



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