■GOOD AQUA■

不確実性からの帰結


04.07.03



 ここまで見てきたように、アクアリウム(=水草水槽に魚だけ、あるいは水草だけの水槽も含めて)は「不確実性の塊」と言ってよいほど予測が難しいものです。「これをすればこうなる」と一律に言い切れるものではありません。うまく維持している人の設備を1つ残らず真似してみても、またpHやKHといった値を同じに調整してみても、それが同じ結果を導くかと言えば、必ずしもそうではありません。

 そしてこの「アクアリウムは不確実なものだ」という事実は、アクアリスト共通の認識であるため、アクアリスト同士が情報の受け渡しをする場面で暗黙の了解事項として付随してくる重要な情報だと言えます。

 たとえば
「うちでは、pH4.8/照明なし/水温24度でネオンテトラが繁殖してるよ」と誰かに伝えている場面では、その言外に、
【ただしこれはあくまでも私の成功例の1つであって、これ以外の条件でも成功する可能性はいくらでもある。環境がまったく異なるあなたのところでだとまったく違った条件でも成功する可能性が十分にある。】という情報が隠れているのが通常です。

 またたとえば、
「コケが生えて困っています!どうしたらコケを減らせますか?」という質問に対して、
「とりあえず換水の頻度を上げて施肥を止めてみて下さい。」と回答しているような場面であれば、そこには
【ただし、コケの発生原因は水槽ごとに違うし、それがこのあとどうなるかを確実に予想することは誰にもできない。どうすれば抑えられるかも減らせるかも水槽の状況とその人の腕次第だ。しかし換水頻度を上げることで解決できる可能性は比較的高そうに思えるから、とりあえずはそうしてみたらどうだろうか。ダメな場合も十分に考えられるけれど。】という、不確実性に関わる留保が隠れているのがふつうです。
 すなわち、「アクアリウムは不確実なものである」という情報は、その他の情報のやり取りの場面で必ずその一部を構成していると言えます。どの情報にも共通していることだからこそ、暗黙の了解事項としてみな一々言わずに省いています。

 したがって、 「不確実性」の認識が定着していないうちは、目にする情報・耳にする情報のすべてに意識的に「不確実性」の情報を足して考えるようにしなければ情報を正しく受け取れない可能性が非常に高まることになります。

 よって、特にアクアリウムの世界に足を踏み入れたばかりの方は、次のような場面に「アクアリウムは不確実なものだ」という暗黙の了解事項が隠れていることに留意が必要でしょう。


●本やインターネットで「比較すればこのような結果が出ました」という情報を見つけた

→ 本やインターネット上のサイトには、維持についての方策や器具の有効性を検証したり実証したりするために実際の水槽の様子が提示されていることがあります。こういった実例は非常に説得的ではありますが、前の“不確実性1〜3”で見てきたように、アクアリウムにおいては結果は非常に不確実なものであって、「結果=有効(or無効)」と考えるのは危険です。「まったく同じように設置した・維持した」としても、対象は生き物なのですから、完全に同一になどできるわけがありません。ある程度経験を積むと「この部分には特に注意しないと結果が異なってくる」、あるいは「この部分は適当に設置しても大勢に影響は出ない」といった、いわゆる“押さえどころ”が分かってきますが、そうでない人が提示している実例の場合は、本来生まれるべき結果とはまったく別の結果が出てしまっている例も見かけます。比較に使う「水草の種類」といった生き物が絡む部分は特にそうです。
 “不確実性1〜3”においても、不確実性についての認識を踏まえて同じ条件に揃えるように注意を傾けていましたが、結果としては時間の経過と共に差が大きくなったことを考えれば、やはりどこかで同じ条件にはなっていなかったわけです。
 したがって、実例を伴う一見間違いがなさそうな情報であっても、その情報に不確実性の情報を付け足して受け取らねばなりません。鵜呑みは禁物です。

(例) 「この育成剤を加えると、画像のように〜〜がよく育ちました。」
という、育成剤に効果があることを謳う情報があった場合は
          ↓
 「何も使わなくても水草や魚の生長には水槽ごと、個体ごとに差が出てくるのがふつうです。添加剤を入れた水槽にたまたま生長の速い個体がいただけかもしれませんし、他の要素が原因でその水槽の個体の生長が良かった可能性も十分にあります。逆に言えば、別の水槽だとどうなったかも分かりませんし、あなたの水槽に入れた場合にどうなるかも分かりません。ただ、今回の水槽、で、今回の生体を使った場合で今回の環境に限っては画像のような結果が得られました」
と読み替えなければならないでしょう。


●インターネット上で、「こうすればうまくできますよ」という情報を見つけた

→ あちこちのサイトで見かけるこういった情報には、言外に、“おそらく”、あるいは“たぶん”、“多くの場合”、“余計なことをしていないなら”、“変な状態になっていないなら”、“忠実に実行してくれれば”、“うまくいけば”といった言葉が隠れています。ですから、読む側は実行に移す場合あくまでも自己の責任でしなければいけませんし、失敗する確率が高いことも覚悟しておかねばなりません。また、仮にそこに書いてある情報通りの結果にならなくても、それは不確実なアクアリウムの世界では「当たり前のこと」として受け止めなければなりません。「あのサイトに書いてある通りにやったけど、うまくいかないぞ!」と他で言ってみても誰も同意してくれません。「アクアリウムはそういうものだ」という暗黙の了解事項があるからです。

(例) 「糸状のコケにはペンシルフィッシュを入れれば食べてくれます」
という情報を暗黙の了解事項まで含めて丁寧に書くと
           ↓
 「ペンシルフィッシュの種類や個体ごとの嗜好の問題もあるし、『糸状のコケ』と言っても色んな種類があるのでどの種類に効くのかは確定するのは難しいし、そのコケが健康で固いものなのか弱っていて柔らかいものなのかにも左右されるし、コケが食われるよりも殖えるスピードの方が速いのならばコケの全体量は減らないから根本的に環境を改善しなければならないかもしれないなど、様々な可能性が考えられるますが・・・・糸状のコケにはペンシルフィッシュを入れれば(たぶん)食べてくれる(でしょう)」 といった情報になるでしょう。


●掲示板で質問に対して「こうすれば良いですよ」という回答をもらった

→ 回答者はふつう、言外に、“あなたの水槽や技術によって大きく左右されることなので確実さは低いですが、こうしたら良いのではないでしょうか”といった意識を含ませています。回答を書きながら「あ、でも、この方がもしこういう器具をつけていたらこれは当てはまらないな」とか、「もしあの部分がこうなっていたらこの方法ではダメなんだけどなぁ」とか、「こうすれば高い確率で対処できるけれどこの方の水槽ではどうだろうか?」などと様々なことを考えています。しかし、「掲示板」という場所の性格上、書ける字数にも書き込む労力にも制限があってそういったことまですべてを書くことは不可能です。したがって、読む側もそのあたりのことを汲みながら読まなければうまく理解できないと思われます。

(例) 「水のpHが6.5以下に下がらずトニナの葉が小さいままです。どうしたら良いでしょうか。」
という質問に対して、
 「おそらくCO2の添加量が少ないのだと思います。増やしてみて下さい」
という回答があった場合、これを暗黙の了解事項まで含めて書くとすると、次のようになるでしょう。
          ↓
「pHを上げるものが少しだけ水槽の中か濾過槽の中に入っていればこのようなpHになることは考えられるけれども、一般的にはCO2の添加量が少な過ぎる場合が多いのでたぶんこの場合もそうであろうと思われます。したがって、添加量を増やしてみて下さい。ただし、増やし過ぎるとエビが死んだりといった不都合が起きる場合があるので増やすときは何時間か経過観察しなければいけないかもしれません。特にテトラやデナリーのバブルカウンターのように1泡が大きいものは要注意です。しかし多くの場合は増やし過ぎで問題が起きたりしないのでそんなに神経質になる必要はないかもしれません。」といった具合です。


●水槽関連の本や熱帯魚ショップで「水槽は簡単ですよ」と見た・聞いた

→ これは簡単な話しです。営業成績のを上げるためにそう言っているだけのことです。「これとこれを買って使えば簡単に飼えますよ」 と言った方が、「難しいですよー。なかなか思ったようにはいきませんよー」と言って敷居を上げるよりも明らかに得策でしょうから。したがって読む側・聞く側は、「そういうものだ」と思っておきましょう。儲けを出してこそ商売が成り立つのですからそこに議論を割り込ませてもあまり意味がないでしょう。


 情報を読み取る場面の他に、何かアクアリウム用品を購入する場面でも同じ注意が必要になります。
 器具メーカーが製品を売り出すとき、よく「これを使えばもう換水要らず!」とか、「これを入れるだけで水がピカピカに!」といった文言をつけています。こういった文言を読むときも「アクアリウムの不確実性」を意識しないといけません。その製品を使用しても必ずその通りの結果になるとは限らないのです。その通りにならないことの方が多い製品さえあります。「使っても効果が出ない」という消費者からのクレームに対し、「効果が出ないこともアクアリウムでは珍しくありません」と反論するなど、言外に潜むアクアリウム不確実性を逆手に取った対応をされることもよくあるようです。
 したがって、「アクアリウムの不確実性」という暗黙の了解事項は情報を得る場面だけでなく、物品を購入する際にも意識しておかねばならないでしょう。

 

 以上をまとめると、

●アクアリウムは不確実なことの集積である
そして、
●アクアリストは通常それを暗黙の了解事項として情報をやり取りしている
したがって、
●情報を取得したり物品を購入したりする際にはそれを意識しておかねばならない

ということになります。

 ここまで書いてきたことは、アクアリウムをある程度維持した経験のある方にとってはあまりにも当たり前過ぎて、「何を今さら」と思いながら読んでこられたかもしれません。「暗黙の了解事項」なのですから、それはそれで不思議はありません。
 しかし、アクアリウムの世界へ足を踏み入れたばかりの方にとっては新鮮な情報だったはずです。「へぇ〜、そういうものなのか・・」と思われた方は、これから情報を読み取るときや器具を使用するとき、以上のことをぜひ意識してみて下さい。
 



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