□GOOD AQUA□

水草水槽におけるフィルターの働き


04.11.20


  


フィルター(濾過器)の4つの働き

 水草水槽におけるフィルターの働きは、大きく分けると4つあります。

 

 ・「水を浄化する」

 ・「水温を均一化させる」

 ・「水槽内にCO2や栄養分を拡散させる」

 ・「生体の好む環境を作る」

以上の4つです。ではこの4つを少し詳しく見てみましょう。


(1)1つ目の働き=「水の浄化」

 「水を浄化する」働きは、「浄化の“方法”、“そのやり方”」によってさらに4つに分けることができます。

 ・「水を浄化する」
  (A)毒性の高い物質を無害な物質に速やかに分解する浄化方法
  (B)有害物・不要物を濾材に吸着させて取り出す浄化方法
  (C)不要物を濾して取り出す浄化方法
  (D)有害物・不要物を分解してガスなどに変え水槽外に放出する浄化方法

 ・「水温を均一化させる」

 ・「水槽内にCO2や栄養分を拡散させる」

 ・「生体の好む環境を作る」


 この4つの働きのうち、(D)の方法は現在の一般的な水草水槽ではほとんど使われていません。代表例は“脱窒”と呼ばれる方法ですが、別途専用の仕組みや薬品が必要になったり、“そもそも水草水槽ではその必要性が低い”、という現実があるからです。したがって、 まずは(A)(B)(C)の3つの方法について理解しておけば基礎知識として十分でしょう。


(A)毒性の高い物質を無害な物質に速やかに分解する浄化方法

 水槽では魚の排泄物や残餌などから“アンモニア(や、アンモニウムイオン)”が発生します。購入したばかりの新しい水槽に魚を入れ2日ほどしてからアンモニア試薬で飼育水を測定すると、アンモニアの存在を確認できます。実はこの“アンモニア”、魚にとっては非常に有害な物質で、そのまま放置しておくと魚が死んでしまうことがあります。さらにアンモニアが水槽の中・濾過槽の中のバクテリアによって分解されてできる“亜硝酸イオン”も魚にとっては猛毒で、多量になると酸欠を起こして死んでしまいます。
 水槽ではこの亜硝酸もバクテリアによって分解されて“硝酸イオン”になるのですが、この“硝酸イオン”は無害なので、この段階まで分解が進めば魚は安心です。逆に言えば、魚が元気でいるためには、水槽の中で刻々と発生するアンモニアがバクテリアによって速やかに硝酸に分解され続けている必要があるわけです。
 したがって、「水の浄化」で最も重要なのは、アンモニアを速やかに硝酸まで分解してくれる“バクテリアの存在とその活動”、ということになります。


 バクテリアがアンモニアを硝酸に変える過程を模式図で表わすと次のようになります。

いろいろな有機窒素化合物
    アンモニウムイオン(NH4+)・アンモニア(NH3) …有害
 
  ニトロソモナス属のバクテリアたちによって分解
 
       亜硝酸イオン(NO2-) …有害
 
  ニトロバクター属のバクテリアたちによって分解
 
        硝酸イオン(NO3-) …ほぼ無害


 よって、“フィルター”は、このバクテリアたちを棲まわせる入れ物であると同時に、アンモニアや亜硝酸イオンを含んだ水を運び込み、そして浄化された水を水槽に戻す働きをするわけです。

(注1) 分解の過程についての情報は「一般にそう言われている」というレベルの情報です。バクテリアの働きは趣味で水槽をキープしているレベルの者が簡単に確認できるようなものではありません。私も未だ自分で確認したことがありません。あくまでも“受け売り”情報です。ただし、アンモニアや亜硝酸イオンなどの存在やその増減の変遷は市販されている試薬で簡単に確認できるため、この模式図の流れそのものは趣味のレベルでもまず間違いないと判断はできます。
(注2) 分解に携わるバクテリアは酸素を使って分解を進める(=酸化)好気性バクテリアのグループに属するとされています。
(注3) この分解の過程は“硝化”とも呼ばれます。また分解を行うバクテリア(=細菌)は、“硝化(細)菌”あるいは“濾過バクテリア・濾過細菌”とも呼ばれます。厳密には意味にズレがありますが趣味のレベルでは同じ意味で使われているようです。アクアリウム関係の本を読んでいてこれらの単語が出てきた場合はほぼ同じ意味と理解して良いでしょう。
(注4) “アンモニウムイオン”と“アンモニア”のどちらの形で水の中に存在するかは、その水がどのくらい酸性か、あるいはアルカリ性かによって決まるとされています。pH7以下(中性〜酸性)だと魚やエビに安全な“アンモニウムイオン”の形で存在し、pH7超(=アルカリ性)に傾くほど毒性の高い“アンモニア”の形で存在する割合が増すと言われています。実際、アルカリ性の水質で飼育を始めるとアンモニアによると見られる斃死が増し、逆に酸性側の水質だとアンモニアによると思われる斃死はあまり問題になりません。
(注5) 魚が排泄するアンモニアのほとんどは鰓から出されたもので、糞尿として出されたものはその2割ぐらいだと言われています。
(注6) 分解のためのバクテリアは、その用途のために市販されている商品もありますが、「市販品でフィルターの中に定着して長期間働き続けるものは無い」というのが大方の意見です。したがって、通常、水槽を新たにセットする場合は、バクテリアが空気中などから自然にフィルターの中に入り込んで増殖するのを待つことになります。バクテリアが十分定着するにはセットしてからおよそ1ヶ月から2ヶ月ほどかかるため、魚を購入するのはフィルターを設置してから最低でも1ヶ月は待つのが安全です。
(注7) 生産された硝酸イオンは、水槽の中で他の物質と結びついたりしながら、水草に吸収されたり、あるいは還元されて窒素ガスになり水面から放散したりして、その多くが消費されて無くなっていきます。しかし消費される以上に生産される量が多い水槽では硝酸イオンが他の物質とともにだんだん水槽内に蓄積してきます。このような水槽では水が徐々に酸性に傾いてきますし(硝化の過程では水素も生産されるからです)、硝酸はコケの過剰発生の原因の一つにもなります。したがって硝酸イオンが溜まってくる水槽では、ときどき換水によって硝酸イオンを水槽の外へ排出してやる必要があります。
(注8) アンモニアが硝酸にされるまでの一連の分解のことを「生物濾過」、以下に説明する“吸着”“濾し取り”の2つを「物理濾過」と言って区別する場合もあります。


(B)有害物・不要物を濾材に吸着させて取り出す浄化方法

 “フィルター”は、その濾過槽の中に吸着性能をもつ濾材を入れることで、水の中の有害物・不要物を吸着して水を浄化する機能も果たします。濾過槽によく用いられる吸着濾材は“活性炭”と“ゼオライト”の2つです。濾過槽に入れたりフィルターの水流があたる場所に置くことで有害物や不要物を減少させることができます。
 吸着が済んだ濾材は、再生が可能なものや可能な場合もありますが、たいていは新品との交換となります。
 このような吸着濾材は、種類や条件によってある程度アンモニアを吸着してくれます。したがって、設置したばかりでバクテリアがまだ十分に棲み付いていない水槽では、アンモニア対策としてけっこう重宝します。もちろん水の黄ばみなども取り除けます。

 このように、“フィルター”は、“濾材で不要物を吸着→濾材ごと水槽外に排出”という方法で水を浄化する働きも持ちます。



(C)不要物を濾して取り出す浄化方法

 フィルターは、当然、“フィルター”というその言葉通りの働きもします。不要物を“濾して”取り出す働きです。フィルターの中に濾材として化繊のウールや目の微細なネットを入れ、そこに水を強制的に通して水中の浮遊物を濾し取る方法です。
 濾された浮遊物はその場で直ちに微生物に分解され始めますが、水草から出る植物繊維などは分解されにくいため、そのほとんどが残ってウールやネットがだんだん目詰まりしてきます。したがって、使い始めてある程度の期間が経過したら、濾材をいったん取り出して洗浄して再び戻すか、あるいは新しいものと交換することで濾し取る働きを維持していくことになります。

(2)2つ目の働き=「水温の均一化」

 熱帯に棲む魚や水草を飼育する場合は水槽にヒーターが必要になりますが、ヒーターを着けた場合には、必ず水槽内にある程度の水の流れが必要になります。流れが無いと水槽内に温度ムラができてしまうからです。ヒーターで温められた水はヒーター周辺と水槽の上部だけに溜まり、水槽全体が温まりません。また水槽の上に蛍光灯を載せる場合も同様で、水面付近だけが蛍光灯で温められてやはりムラのある水温になってしまいます。
 したがって“フィルター”は、水槽の中で「水温を均一にする」という重要な働きもしています。フィルターの購入時などにはこのような働きも考慮しないといけません。


(3)3つ目の働き=「CO2などを水槽中に拡散させる」

 水草水槽には二酸化炭素(CO2)や水草の栄養素を添加することがよくあります。添加は、もちろん水槽全体に満遍なくできれば良いのですが、手でポタポタ全体に垂らして行うようなことは現実として無理です。したがって、ふつうは水槽の一地点で添加し、これを水流で水槽内に拡散させる方法に頼ることになります。
 すなわち、フィルターとその水流は、そういった「水槽中に満遍なく拡散させる」という働きも担っているわけです。見落とされがちな働きですが、軽視している水槽の維持で失敗して痛い目に遭うことがあります。要注意です。



ぐ〜る ぐ〜る。


(4)4つ目の働き=「生体の好む環境を作る」

 “フィルター”、およびその“水流”にはさらに重要な働きがあります。それは「魚や水草が好む環境を作り出す」という働きです。
 魚や水草には、種類ごと、各々好みの水流があります。強い水流を好むもの、あるいは弱い水流を好むもの、それぞれで違っています。したがって、その好みを無視した水流を作ると、ある程度の間はみな耐えてくれても結局は早死させてしまったり枯らしてしまったりします。また当然ながらそういった水槽では、水草水槽の最大の楽しみの1つである「繁殖」の様子を観察する機会が奪われてしまいます。
 フィルターの購入を考える際は、単純に「流量が多い大きな機種ほどフィルターとしての性能が上」と考えずに、この働きも必ず考慮に入れましょう。




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