CO2添加のための発酵を安定させる
『密着式保温箱』
  


05.11.17


 

 少し前なら、“発酵式”などと言う添加方法はマニアックなイメージがありましたが、今はすっかり「定番」と言えるようになりました。しかし、その具体的な方法論については、みなさんご存知の通り、まだまだ改良の余地があります。特に発酵スピードを一定に保つ方法については、私を含め多くの方々がいまだ試行錯誤している段階だと思います。
  そこで、このページでは、その方法論の検討に参考になると思われる情報を提供してみたいと思っています。

 発酵の安定には、菌の種類や発酵床の種類なども重要な要素となりますが、最もコントロールし易く効果的要素は、やはり発酵床の“温度”ということになるでしょう。
 発酵床の温度をコントロールするために現在一般に行われている方法としては、発酵床が入ったボトルを、
 (1)水槽の中に投入する
 (2)フィルターやライトの上に置く
 (3)一定の温度の水を満たした容器に入れておく
 (4)水槽にボトルを並べて引っ付けておく
という4つが主なところだと思います。※1
 
  4つとも、発酵の安定に多かれ少なかれ有効なのは間違いないのですが、 短所もあります。
  (1)水槽の中に投入すると水槽の中でボトルが目立つだけでなく、スペースを取ります。小さな容器を水槽にしている場合などは事実上使えない方法でしょう。
  (2)フィルターやライトの上に置く方法では、ボトルをうっかり倒し中身が水槽の中に流れ込んでしまう事故が時々起きます。それが元で水槽の中に甚大なダメージを与えることも少なくありません。
  (3)別の容器にぬるい水を用意してそこにボトルを浸けておく方法は、その容器にサーモスタットやヒーターを別に用意する必要があったり、その容器を置く場所をただでさえ狭い水槽周りに確保しなければいけなくなったり、ということで少々面倒さがあります。
  また、(4)水槽と並べてひっつけておく方法は、気温が特に低い冬季に効果が薄いと言えます。水槽から伝わってくる熱の量よりもボトルから逃げていく熱の量の方が多いのでしょう、発酵が安定的に進まないことがよく起きます。

 結論としては、どの方法にもある程度の効果は認められこそすれ、「決定的な方法」と言えるようなものはまだない、ということになるでしょう。
 ただ、“少しだけマシな方法”は存在します。それがここで紹介する、ボトルを断熱材で囲んだ上で水槽に密着させる『密着式保温箱』を自作する方法です。
   
 実はこの方法、1990年前後にはすでに製品として存在していました。DENNERLE(デナリー)社の『CO 30』というセットに含まれていた発泡スチロールのコンテナ(thermo container)がそれです。※2
  しかし、デナリーが日本での販売を止めてしまって以来、時間が経過したためか、最近は、水槽に“保温箱を”水槽に密着させるこの方法が忘れ去られてしまったようで、ほとんど実践例を見かけなくなってしまいました。上記の例で言えば(4)の方法よりも発酵の安定化の効果が高いので、非常に残念。

  そこで、このページで紹介し、方法論として定着するためのきっかけを作ってみたいと思いました。

  名付けて、『密着式保温箱』。略して『密着式』。 
  ・・『thermo container』だと言いにくいですし、登録されていたりすると面倒なので、“自作”をする今回のものにはあえて別の名前をつけておきたいと思います。

 『密着式』は、ボトルを“保温箱”に入れて箱ごと水槽に“密着”させることで水槽の温度と連動を図る、という2点が、上記の(4)よりも効果が見込める理由であり、また普通の保温箱との決定的な違いとなっています。水槽は、中に生体が入っているためキーパーがヒーターやファンを使って一年中水温を一定範囲に保っているはずです。また、水槽は水量がある程度あるため朝晩の水温の変化が緩和されています。一方、発酵床のボトルは体積が小さく表面積の割合が大きいために、周りの温度変化の影響を強く受けてしまいます。
  そこで、「それならボトルを水槽に密着させて水槽と“水量として一体化”させてしまえばいいじゃないか」という発想になるわけです。つまり、発酵床の体積を何十倍から何百倍に増やしてしまおう、と考えるのです。ここが『密着式』のポイントです。
 
※1 温度をコントロールする方法としては、他に、ボトルそのものにサーモスタットとヒーターを入れる方法(少々面倒)や、単純に保温性の高い容器(魔法瓶など)に入れて発酵の熱そのものを利用する方法(発酵量が少ないので熱も少ない)など、いくつかあります。

※2 発酵で発生する二酸化炭素を水草の生長に利用するというアイデアや、保温箱に入れて水槽にひっつけるというアイデア自体は、DENNERLI社独自のものではありません。DENNERLE社が商品化する前からアクアリストの間にアイデアや実践例として存在していました。「製品として日本で最初に全国的に発売された」のがDENNERLE社のものだった、ということです。
 
 
 
1.作ろうとしているもの

 
   

 この画像は当サイトのどこかで使ったことがあるので、ご覧になった方もいらっしゃると思います。奥に見えているのがDENNERLEの『CO30』の発酵床ボトルです。このボトル、本当は、この画像のように机にポンッと置いて使うものではありません(私が面倒くさがりなだけ)。

 
 



   本来は、これら=拡散器とバブルカウンターとボトルの3つを、
 
 
  発泡スチロールでできたこんな保温箱に入れ、水槽にひっつけて使うものなのです。
 
 
   

 ちなみに、『CO30』の保温箱(コンテナ)の中の様子と使用方法はこんな感じです。(この画像はDENNERLEの画像を基に私が描いています)
  コンテナの上部を水槽のフチに引っ掛け、ガラスと接する部分は両面テープで接着してあります。
  作ろうとしている『密着式』は、これと同じで、水槽の上部に引っ掛けるタイプのものですが(このタイプが一番汎用性が高いのです)、フチなし水槽に使うのならば、水槽の下部に水槽と並べるように設置するタイプの方が水槽に無理がかからないですし、作りやすいと思います。
 

 

 

2.製作の実際

(1)『密着式保温箱』の完成品イメージ

 
   完成品はこれです。以前作った『密着式』は、使用中にうっかり肘でエルボーチョップを食らわせて首をもいでしまいました。そこで今回新しく作り直すことにしました。
 バブルカウンターもコンテナの中に入れれば見た目ももっと良かったのでしょうけど、中に組み入れる工夫は少々めんどうなので今回は外に放り出しておくことにしました。根気がある方は中に組み入れられるようにしてみて下さい。ただし、入れても発酵への効果はほとんど実感できないと思います(経験から)。
  ちなみに、首(水槽に引っ掛ける部分)をうっかりもいでしまったときは、短く切った割箸を横に貼り付けてそれを水槽に引っ掛ければけっこう長く使えます。参考までに。
 


(2)『密着式保温箱』の作成に必要な物

  (ア)発泡スチロールの板 ※3
  (イ)定規(寸法を測るものと、カッターナイフに当てるもの)
  (ウ)カッターナイフ
  (エ)接着剤(発泡スチロールに使えるもの。無ければ両面テープの強力タイプ)
  (オ)ペットボトル ※4
  (カ)両面テープ(水槽と接する面に貼るためのもの。あまり強力なものだと外した後が大変。)

※3 果物店などで発泡スチロールの箱をもらってきてそれを切るか、あるいは、DIYに力を入れているホームセンターだと家の壁や床の断熱材の売り場に置いてあることが多いようです。断熱材として売られているものなら60×90センチぐらいの大きな板が100円程度で買えます。

※4 『密着式』の中に入れるペットボトルは、円柱よりも四角柱に近い形状のものが水槽との接触面積が大きいですし、箱も隙間なく作りやすいと思います。私の場合、60センチ水槽に使うときならば、ニチレイの『アセロラドリンク 900PET』(900ml)や伊藤園の『充実野菜』(930g)などのボトルを愛用しています。
また、ボトルは、キャップに前もって発酵式用の加工を施しておくのが良いと思います。箱の蓋を実物に合わせながら作れます。




(3)作成の手順

(ア)

  まず、“保温箱を水槽のどこに密着させるか”を決めなければいけません。その際、「メリットのある場所」を検討するのではなく、「このデメリットだけは見過ごせない」という場所を避けて決めるのがポイントです。

  保温箱を水槽の“横に密着させるか背面に密着させるか”で発生するデメリットは次の通りです。
 ○側面に密着
  ・箱が目立って水槽鑑賞の邪魔になる
  ・水槽の周りで作業をしているとぶつかって箱を剥がしたり壊したりしてしまうことがある

 ○背面に密着
  ・発酵の進み具合が確認しにくく、「いつの間にか発酵が終わっていた・・」といったことがよく起きる
  ・箱とガラス面との間にバックスクリーンを挟み込むことになる
  ・もし水槽の背面に箱が入るだけの隙間が空いていなければ水槽を動かす作業が必要になる
  ・ボトルの中身の入れ替え作業がしづらい

 保温箱を水槽の“上の方に密着させるか下の方に密着させるか”で発生するデメリットは次の通りです。
 ○上に方に密着
  ・場所的に水槽の上の蛍光灯と干渉し合う場合が多くなる
  ・蛍光灯の熱の影響を受ける場合がある
  ・箱に水槽のフチに引っ掛ける部分を作るのが面倒

 ○下の方に密着
  ・上下にフチ(帯)が付いている水槽の場合、ガラス面に密着させようとするとフチが邪魔になる
  ・ボトル内の発酵の様子を上から覗きにくい
  ・側面に貼り付ける場合は引っ掛ける部分が無いので接着力の強いテープなどが必要になる
  ・下に置く場合は水槽のフチのを避けて密着させるために作成に工夫が要る
  ・下に置きたいと考えても水槽台が水槽よりも大きくないと置けない

  以上に「これだけは見過ごせない」という点があればその設置場所は避けましょう。複数あって「どこにも着けられないじゃないか」という事態になった場合は、各自の工夫で乗り切って下さい。具体的には、
 ・保温箱が目立つ→材質やデザインに工夫を凝らす
 ・水槽のメンテ中に手がぶつかる→ぶつかっても剥がれ落ちないように接触面を増やす
 ・中身の確認→確認しやすいように蓋の裏に小さな鏡を付ける
 ・蛍光灯と干渉する場所→フチに引っ掛けず強力な両面テープでガラス面だけに着ける
 ・蛍光灯の熱→保温箱の蓋を分厚くする
 ・水槽の下部のフチが邪魔で密着させられない→保温箱の底板を厚くするとともにその板の側面に凹みをつける、

といった工夫です。

  水槽のどこに密着させるかが決まったら、“箱のどこを削って凹ませれば水槽に密着するか”を考え、保温箱の形状を決定します。  


 

 



(イ)

  形状が決まったら、次は部材の切り出しです。ペットボトルを囲ったときに隙間ができないようにキッチリと寸法を合わせて発泡スチロールを切っていきます(5面分)。隙間ができると保温効果が格段に下がってしまいます。気をつけて下さい。
  ボトルを箱に収納したときボトルの頭の部分が箱から出るようにしたいときは、その分、壁面の板の長さを加減しておきます。
 
 
 

(ウ)

  板が切り出せたら、板同士を隙間無く接合できるように断面をなだらかに均します。
  その後、水槽に接する部分を水槽のフチの形状に合わせて整形します。フチに引っ掛ける部分の厚さは、あまり薄くするとボトルの重さに耐えられなくなるので注意しましょう。しかし、逆にあまり厚く大きくしてしまうと、今度は蛍光灯に当たってしまうことがあります。頭の中だけで考えるのではなく水槽に実物をあてながら決めていきましょう。
  蓋は、中にボトルを入れたあと単純にセロテープで留める構造でも良いのですが、今回は臍(ほぞ)を彫ってはめ込み式にしようと思います。したがって、壁面の上部(画像右上の方)に臍(ほぞ)をつけてみました。

 
 
 




(エ)

  蓋の方は、周りに臍溝を彫り、ボトルの頭が嵌まるように中央付近を刳り抜きました。中心の孔はチューブを通すためのものです。
 
 
 
 




(オ)

  あとは組み立てだけです。
  接着剤を使う場合は必ず「発泡スチロールも接着できます」と書いてあるものを選びます。汎用のものだと塗った途端に発泡スチロールが溶けてしまいます。両面テープの場合は、ボトルの重さで底が抜けてしまわないよう、接着力が強力なものを選びましょう。
 
 
 




(カ)

  本体が組み上がった段階でペットボトルを嵌めてみます。
 
 
 





(キ)

  上からも見て、周りに隙間がないか点検します。

 
 
 




(ク)

  最後に蓋をちゃんと嵌まるか確認。
 
 
 




  上から見るとこういう状態。
 
 
 




  蓋と本体の接合部(臍と臍溝)と、水槽のフチにひっかける部分のアップ。
 
 
 




  ボトルを入れて蓋をするとこんな様子になります。
 
 
 




  正面から。
 
 
 




(ケ)

  中にボトルを入れて蓋を閉め、チューブとバブルカウンターをつけて水槽の中の拡散器につないだら完成です。
  画像のものは、保温箱を水槽に密着させるため、ガラスと接する部分に粘着力の弱い両面テープが貼ってあります。
 
 

 

3.『密着式保温箱』の留意点

●夏場は外す必要がありますか?
→ 水槽の水温に連動するため、夏・冬を通じてボトルを一定の温度に保つ効果がある保温箱です。夏場も外す必要はありません。むしろ着けておいた方が発酵スピードが安定します。

●水槽の横に着けると蛍光灯とぶつかっていまうのですが・・
→ 横よりも背面の方が隙間があることが多いですし、見た目にも目立たないので背面に着けることをお勧めします。

●箱はフチに掛けておくだけではダメでしょうか?
→保温箱は壁面に貼り付けなくても、壁面に満遍なく接していさえすれば大丈夫です。一時的に設置した水槽に保温箱を両面テープで貼り付けてしまうと取り外す時に面倒ですよね。ですからそういう場合、私はフチに掛けておくだけでテープ留めはしていません。ただし、工作を失敗して、保温箱(ボトル)と壁面との間に隙間ができる雑な造りの保温箱の場合は貼り付けないとダメです。発酵の安定化の効果がほとんどありません。

●背面につけるとバックスクリーンが間に挟まってしまうのですが・・
→ 断熱性の高い材質のバックスクリーンなら話しは別ですが、ふつうの薄い紙やセルロイドなどのバックスクリーンであれば、コンテナと水槽の間に挟まっても気にする必要はあまりありません。バックスクリーンが挟まっても発酵床の温度を一定化させる効果にはあまり影響しません。まず、バックスクリーンが保温箱の重みで落ちないようにしっかり水槽に貼り(水槽に密着させた方が熱がよく伝わります。できるだけ密着させましょう。)、その外側に保温箱を両面テープで貼り付けます。私の場合、いつもそのように設置して使っています。

●フチなし水槽に着けても水槽は大丈夫でしょうか?
→外掛けフィルターを着けるのと同じですから、基本的には大丈夫です。しかし外掛けフィルターの取扱説明書によく書いてある注意書きと同じで、壁面に何かを設置するのは、水槽の接合面に負担をかけるのでやはり心配はあります。無理な力は避けるべきでしょう。ですから、大きなボトルはそもそも使わないか、あるいは、水槽の上部に引っ掛けるのは止めることです。本箱の底板を厚くして水槽の隣に並べるようにピッタリ置くようにすれば良いでしょう。そうすれば水槽に負担をかけずに済みます。



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